シャンソン・ヴァリエテ
こんな本まで出るとは、いったい今はいつなんだろう、という不思議な気分を抱きながら本書を手に取った。 ジッド『ソヴィエト旅行記』、國分俊宏訳、光文社古典新訳文庫、2019年 1936年、66歳になるジッドは2ヶ月かけてソヴィエトを旅行し、帰国後に『旅行記…
フランス文学入門者向けの作品リスト、のようなものを作りたい、としばらく前から思いつつもまだ果たせないでいる。理由はいろいろある。あくまで王道を行くなら古いところを中心にして、あっという間に20も30も書名が上がるが、それでは今時の入門向けとし…
昨日、久し振りに大阪でマラルメの読書会に参加。テオドール・ド・バンヴィルについての一文を読む。 その朝、たまたまテレビで杉田玄白の番組を見た。 杉田玄白は前野良沢らと『ターヘル・アナトミア』を翻訳しようと決意し、顔を合わせてはオランダ語の意…
これまたフランスではないけれど。 バーバラ・ストック『ゴッホ ――最後の3年』、川野夏実訳、花伝社、2018年 文字通り、ゴッホの最後の3年(1888-1890)を描いた、オランダの伝記漫画。つまりパリから南仏へ移って以降、オヴェール・スル・オワーズに至るま…
『宝島』を読んだら、『ジーキル』に行くのはもう避けられないと言うべきか。 スティーヴンスン『ジーキル博士とハイド氏』、村上博基訳、光文社古典新訳文庫、2009年 は、なにしろ有名な作品だ。二重人格という主題は、それだけ人を惹きつけるものがあるの…
ガイブン初めの一冊にお薦めなのは何だろうか? という問いに対しては、無論、私だって好き好んで『ボヴァリー夫人』を挙げるわけではない。19世紀フランス文学限定というなら、『ゴリオ爺さん』を挙げてもいいかもしれないが、いきなり冒頭でつまずかれる危…
一言で言って、これは傑作。 ペネロープ・バジュー『キュロテ 世界の偉大な15人の女性たち』、関澄かおる訳、DU BOOKS、2017年 culotttéは「厚かましい、図太い」を意味する形容詞、と辞書にある。ここでは culotter の過去分詞「キュロット(半ズボン)をは…
こんなの出てるなんて知らなかったなあ、誰か教えてよー、と激しく思ったので、非力ながらここにご紹介に努め、どなたかのお役に立てればと願う。 アレクサンドル・デュマ原作、森山絵凪『モンテ・クリスト伯爵』、白泉社、Young Animal Comics、2015年 マル…
久方ぶりにモーパッサンの翻訳をする。 モーパッサン 「恐怖」(1884) 昨年の秋にモーパッサンの幻想小説について発表する機会があり、その余波で「さらば、神秘よ」を訳し、今回は「恐怖」(1884)を訳した。まるで15年ぶりくらいにようやく宿題を提出したよう…
ジュリー・ダシェ原作、マドモワゼル・カロリーヌ作画『見えない違い 私はアスペルガー』、原正人翻訳、花伝社、2018年 原作者の経験に基づく自伝的漫画。主人公のマルグリットは27歳、会社員として働き、恋人もいるが、様々な面で生きづらさを感じている。…
『ふらんす』3月号に、「対訳で楽しむモーパッサンの短編(最終回) 「クロシェット」②」が無事に掲載されました。クロシェットとあだ名される老婆は、かつては美しい少女オルタンスでした。彼女の身に起こった事件とは……。コラムは「映画『女の一生』」です…
モーパッサンの短編を漫画化した作品というのは、いろいろあってもよさそうだと思うのだけれど、これまでお目にかかる機会がなかった(ご存知の方がいらしたら、教えて頂けると嬉しいです)。このたび初めて目にすることができたのが、Iさんに教えてもらった…
いやはや、こんなに長かったっけ。 ヴィリエ・ド・リラダン『未来のイヴ』、高野優訳、光文社古典新訳文庫、2018年 は、なんと800頁を超えており、本文だけでも768頁まである。もっとも比較的短い章に区切られているし、この新訳は平易な言葉遣いで書かれて…
フランスではないけれど。 ビルギット・ヴァイエ『マッドジャーマンズ ドイツ移民物語』、山口侑紀訳、花伝社、2017年 この漫画を読むまでモザンビークの歴史なんて何にも知らなかったから、歴史的事実にまずは驚くばかり。 ポルトガルの植民地だったこの国…
『死刑囚最後の日』と言えば、今は昔、大学生の頃に岩波文庫の豊島与志雄訳で読み、結構感動したことを覚えている。若かったなあ。 当時はフランスについて勉強を始めた頃でもあったから、1981年、ミッテラン政権下に法務大臣ロベール・バダンテールが、民意…
『ふらんす』2019年1月号に、「対訳で楽しむモーパッサンの短編(4) ソヴァージュばあさん②」が掲載されました。今回が完結編です。コラムは「新聞小説家モーパッサン」、「これが言いたかった」ということが書けて嬉しく思っています。ご一覧いただけました…
モーパッサン『宝石/遺産 モーパッサン傑作選』、太田浩一訳、光文社古典新訳文庫、2018年 が11月に刊行される。『脂肪の塊/ロンドリ姉妹』に続く、モーパッサン短編集の2冊目だ。つい、1冊目は内容が渋すぎるのではないかなどと言ってしまったが、はたし…
これはBDではなく漫画だけれど。 Emmanuelle Maisonneuve / Julia Pavlowitch 原作、高浜寛『エマは星の夢を見る』、講談社、モーニングKC、2017年 エマニュエル・メゾンヌーヴさんは、あのミシュランガイドの調査員を務めていて、本作は彼女の実体験を基に…
アルベール・カミュの『異邦人』。有名だし、そんなに厚くないし、と思って気楽に手に取ると、前半はなんだかけっこう退屈だし、後半はなんだか難しく、なんだか訳が分からないまま終わるんだけど、なんだか大事なことが書いてあるような気はする、という「…
信州大学国際シンポジウム2018「19世紀における文学と民衆文化―フランスを中心として―」 | お知らせ | 信州大学 人文学部 12月2日に信州大学で開催される国際シンポジウム「19世紀における文学と民衆文化 ―フランスを中心として―」のチラシ(勝手に転載しま…
今になって改めて『ボヴァリー夫人』を読み直すと、フロベールが自分の登場人物を甘やかさないためにどれだけ必死になっていたかが、しみじみとよく分かる(ような気がする)。彼はエンマやレオンやロドルフやオメーにせっせと「紋切型」をしゃべらせる。そ…
『ふらんす』12月号に、「対訳で楽しむモーパッサンの短編(3) ソヴァージュばあさん①」が掲載されました。普仏戦争を題材とした作品です。コラムは「モーパッサンと戦争」、手に取ってご覧いただけましたら有難く存じます。 2018年9月、ミレーヌ・ファルメー…
『ふらんす』11月号に、「対訳で楽しむモーパッサンの短編 (2) 宝石②」、順調に掲載されました。今月が完結編になります。コラムは「「宝石」と「首飾り」」。手に取ってご笑覧頂けましたら嬉しく思います。 我らがミレーヌ・ファルメール Mylène Farmer の…
『ふらんす』、2018年10月号より、6回にわたって、「対訳で楽しむモーパッサンの短編」を連載することになりました。1回4ページ。 せっかくなのでモーパッサンの一番良いところが詰まった作品を紹介したいと思い、最初の2回は「宝石」"Les Bijoux"を取り上…
ジョゼフ・チャプスキ『収容所のプルースト』、岩津航訳、共和国、2018年を読む。 チャプスキ(1896-1993)はポーランド出身の画家・作家。戦後はフランスに滞在しつづけた。 彼は1939年にソ連の捕虜となり、スタロビエルスク、次いでグリャーゾヴェツ捕虜収…
『図書新聞』、第3339号、2018年2月17日付に、倉方健作氏による拙著『モーパッサンの修業時代 作家が誕生するとき』についての書評が掲載されました。やれ嬉しや。この場を借りて感謝を申し上げたいと思います。 前半は主に著書の内容の紹介。後半部の一部分…
ルーヴル美術館に隠れて暮らす猫たちがいる。その中の一匹、オッドアイの白猫「ゆきのこ」は、いつまでも子どものまま、他の猫たちとも打ち解けることができずに、自分の居場所を探している。 その猫たちの世話をしている夜警マルセルは、ガイドの仕事に馴染…
モーパッサンの若かりし頃の笑劇『バラの葉陰、トルコ館』を訳したのを機に、合わせて訳してしまおうと思い立った詩篇が三つ。 モーパッサン「ひげの女」 モーパッサン「我が泉」 モーパッサン「69」 1881年、ベルギーで地下出版された『19世紀の新サチュロ…
本日、モーパッサンおよび仲間たちの共作による一幕散文劇『バラの葉陰、トルコ館』の翻訳を公開。 モーパッサン『バラの葉陰、トルコ館』について モーパッサン 『バラの葉陰、トルコ館』 私の知る限り、日本語の紹介としては、種村季弘の一文(初出1974年…
先日のエッフェル塔の話の続き。 モーパッサンが加わったというエッフェル塔反対の抗議文書はいったいどういうもので、誰が署名していたのだろうか。 ということが気になったので、当時の新聞を幾つか見てみる。中では『タン』紙、1887年2月14日の記事が、抗…