えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

フランス文学

はじめてのガイブン 大人になるための20冊(+4)(後半)

後半 ニコライ・ゴーゴリ『外套・鼻』、平井肇訳、岩波文庫 ロシア文学。「ある朝目が覚めたら、鼻が自分より偉くなっていた」男の話です。訳が分からない? じゃあ、読むしかありませんね……。え、読んだけど分からなかった? なるほど。でも、それってそん…

はじめてのガイブン 大人になるための20冊(+4)(前半)

・このリストは、10代後半から20代初めで、外国文学をまだ読んだことがない、でもこれから読んでみようと思っている人(男女を問いません)を想定して作りました。 ・数ある古典の中から、「はじめて読む」のにふさわしいと思う作品を選んでいます。どれも有…

ドレフュス事件を思い出す/セルジュ・ゲンズブール「Sea, sex and sun」

上に立つ者が不正を行い、それを隠蔽しようとすることで下の者が犠牲を被る。そうしたことが今の世の中に起こっているというのなら、仏文学者たるもの、そういう話はよく知っていると言わなければならない。ドレフュス事件のことだ。 軍人アルフレッド・ドレ…

『フランス文学小事典 増補版』/-M-「大きな馬鹿なガキ」

フランス文学小事典 増補版 | 語学 | 朝日出版社 岩根久他編『フランス文学小事典 増補版』、朝日出版社、2020 年 が刊行されたのでご報告。めでたいことだ。初版は赤い表紙だったのが、涼しい青色に変更されている。 本書は、2007 年に刊行されたものの増補…

『赤と黒』について今思うこと

スタンダール『赤と黒』、小林正訳、新潮文庫、上下巻、1957-58年(上巻、2017年104刷、下巻、2019年88刷) 今、「『赤と黒』は本当に傑作なんですか?」と聞かれたら、どう答えよう。 ひとつ言えることは、スタンダールは職業作家ではなかったということだ…

『ブヴァールとペキュシェ』/ミレーヌ・ファルメール「悪魔のような私の天使」

ギュスターヴ・フローベール『ブヴァールとペキュシェ』、菅谷憲興訳、作品社、2019年 マラルメは「世界は一冊の書物に書かれるために存在している」と述べた。そのことの意味は、この世界に「意味」をあらしめるのはただ人間の言葉だけであるということだ。…

『カルメン/タマンゴ』/ミレーヌ・ファルメール「私は崩れる」

メリメ『カルメン/タマンゴ』、工藤庸子訳、光文社古典新訳文庫、2019年 『カルメン』については昔にも何か書いたことがあるなあ、と思い出して読み返すと、2010年の記事だった。 カルメン - えとるた日記 『カルメン』は自由の象徴だという読みはまあ常識…

『シェリ』/バルバラ「ゲッティンゲン」

コレット『シェリ』、河野万里子訳、光文社古典新訳文庫、2019年 私は個人的にはコレットにも『シェリ』にもなんの関心もないのだけれど、そういう人間の言うことだからぜひ信じていただきたいと思う。 コレットは本物だ。骨の髄からの小説家だ。『シェリ』…

『ラ・フォンテーヌ寓話』/バルバラ「マリエンバード」

『ラ・フォンテーヌ寓話』、ブーテ・ド・モンヴェル絵、大澤千加訳、洋洋社、2016年 『イソップ寓話』というのなら、日本人の大半はよく知っている。昔から、子どもたちに人生の教訓をわかりやすく教えるという目的で、絵本や小学生用教科書に使われてきたか…

『千霊一霊物語』/バルバラ「我が麗しき恋物語」

アレクサンドル・デュマ『千霊一霊物語』、前山悠訳、光文社古典新訳文庫、2019年 刊行は1849年。舞台は1831年、語り手(デュマ自身)は、妻を殺したばかりだと打ち明ける男に遭遇、市長らと一緒に現場検証に出かけるが、そこでその男は、殺した妻の生首がし…

『ドルジェル伯の舞踏会』/ヴァネッサ・パラディ「その単純な言葉」

二十歳の貴族の青年フランソワは、ドルジェル伯爵夫妻に気に入られ、足繁く出かけて行っては二人と時間を過ごす。彼は妻のマオに恋しているが、しかし夫のアンヌのことも好きであり、嫉妬の感情などを抱いたりはしない。彼はいわば現状に満足しているのだが…

『ノートル=ダム・ド・パリ』/ミレーヌ・ファルメール「涙」

ユゴー『ノートル=ダム・ド・パリ』(上下)、辻昶・松下和則訳、岩波文庫、2016年 は、なんとも長い小説だ。1482年1月6日、「らんちき祭り」の日に、パリ裁判所で聖史劇が行われる、というところから始まるのだが、まずこの裁判所の場面(第1編)がやたら…

『いまこそ、希望を』/ヴィアネ「ヴェロニカ」

初めにお断りしておけば、以下はまったく門外漢の個人的感想です。 ジャン=ポール・サルトル、ベニイ・レヴィ『いまこそ、希望を』、海老坂武訳、光文社古典新訳文庫、2019年 サルトルは晩年、失明し、自身の手による執筆が不可能になった。そこで秘書を務…

『ソヴィエト旅行記』/ヴィアネ「大きらい」

こんな本まで出るとは、いったい今はいつなんだろう、という不思議な気分を抱きながら本書を手に取った。 ジッド『ソヴィエト旅行記』、國分俊宏訳、光文社古典新訳文庫、2019年 1936年、66歳になるジッドは2ヶ月かけてソヴィエトを旅行し、帰国後に『旅行記…

鹿島茂選「フランス文学の古典名作20冊」/ZAZ「小娘」

フランス文学入門者向けの作品リスト、のようなものを作りたい、としばらく前から思いつつもまだ果たせないでいる。理由はいろいろある。あくまで王道を行くなら古いところを中心にして、あっという間に20も30も書名が上がるが、それでは今時の入門向けとし…

『モンテ・クリスト伯爵』/Zaz「明日はあなたのもの」

こんなの出てるなんて知らなかったなあ、誰か教えてよー、と激しく思ったので、非力ながらここにご紹介に努め、どなたかのお役に立てればと願う。 アレクサンドル・デュマ原作、森山絵凪『モンテ・クリスト伯爵』、白泉社、Young Animal Comics、2015年 マル…

『未来のイヴ』/ポム「天国から」

いやはや、こんなに長かったっけ。 ヴィリエ・ド・リラダン『未来のイヴ』、高野優訳、光文社古典新訳文庫、2018年 は、なんと800頁を超えており、本文だけでも768頁まである。もっとも比較的短い章に区切られているし、この新訳は平易な言葉遣いで書かれて…

『読書術』とゆっくり読むこと

Tsさんに存在を教えてもらって、そんな翻訳が出ていたなんて知らなかったなあ、と感動したので読んでみた本。 エミール・ファゲ『読書術』、石川湧訳、中条省平校注、中公文庫、2004年 もとは戦前に出ていたものの復刊であり、ごりごりの直訳調は今となって…

『空飛ぶ馬』とフランス文学

北村薫のいわゆる「円紫さんと私」シリーズは、今年で登場以来30年になるが、今も人気のある作品であることは言うまでもない。語り手の「私」、探偵役の落語家春桜亭円紫をはじめとした登場人物がいずれも生き生きと描かれていることはもちろん、この作品に…

『死刑囚最後の日』/ミレーヌ・ファルメール「不服従」

『死刑囚最後の日』と言えば、今は昔、大学生の頃に岩波文庫の豊島与志雄訳で読み、結構感動したことを覚えている。若かったなあ。 当時はフランスについて勉強を始めた頃でもあったから、1981年、ミッテラン政権下に法務大臣ロベール・バダンテールが、民意…

BD『バンド・デシネ 異邦人』/ジュリエット・アルマネ「インディアン」

アルベール・カミュの『異邦人』。有名だし、そんなに厚くないし、と思って気楽に手に取ると、前半はなんだかけっこう退屈だし、後半はなんだか難しく、なんだか訳が分からないまま終わるんだけど、なんだか大事なことが書いてあるような気はする、という「…

「19世紀における文学と民衆文化」/ジュリエット・アルマネ「愛の欠如」

信州大学国際シンポジウム2018「19世紀における文学と民衆文化―フランスを中心として―」 | お知らせ | 信州大学 人文学部 12月2日に信州大学で開催される国際シンポジウム「19世紀における文学と民衆文化 ―フランスを中心として―」のチラシ(勝手に転載しま…

『三つの物語』/ジュリエット・アルマネ「独りの愛」

今になって改めて『ボヴァリー夫人』を読み直すと、フロベールが自分の登場人物を甘やかさないためにどれだけ必死になっていたかが、しみじみとよく分かる(ような気がする)。彼はエンマやレオンやロドルフやオメーにせっせと「紋切型」をしゃべらせる。そ…

『収容所のプルースト』/ミレーヌ・ファルメール「ローリング・ストーン」

ジョゼフ・チャプスキ『収容所のプルースト』、岩津航訳、共和国、2018年を読む。 チャプスキ(1896-1993)はポーランド出身の画家・作家。戦後はフランスに滞在しつづけた。 彼は1939年にソ連の捕虜となり、スタロビエルスク、次いでグリャーゾヴェツ捕虜収…

バンヴィルとエッフェル塔

慶賀新年。本年もよろしくお願い申し上げます。 先日、古書店で一冊の本が目に留まり「面白そう」と思って手に取って、そのまま店内をうろうろしている内に、なぜかだんだんと気になってくる。もしかして既に持っているんじゃないだろうか。考えれば考えるほ…

『寛容論』の中の日本人/ザジ「すべての人」

キリスト教徒がお互いに寛容でなければならないのを立証するには、ずば抜けた手腕や技巧を凝らした雄弁を必要としない。さらに進んでわたしはあなたに、すべての人をわれわれの兄弟と思わねばならないと言おう。なに、トルコ人が兄弟だと、シナ人、ユダヤ人…

『風から水へ』/クロ・ペルガグ「凶暴サタデーナイト」

縁あって拙著を出版していただいた水声社の社主の(インタビューによる)回想 鈴木宏『風から水へ ある小出版社の三十五年』、論創社、2017年、を読む。 とくに後半では学術関連の書籍出版の実態が詳しく語られていて、私も他人事とは言えないのでたいへん興…

『ファントマ』書評/クロ・ペルガグ「磁性流体の花」

ご縁あって『図書新聞』第3321号(2017年10月7日)に、ピエール・スヴェストル、マルセル・アラン『ファントマ』、赤塚敬子訳、風濤社、2017年の書評を書かせていただく。せっかくなので、冒頭の2段落を引用。 犯罪大衆小説の古典、本邦初の完訳 シュルレア…

名前の問題:Romuald/ヴィアネ「パ・ラ~君がいない~」

久し振りにゴーチエ『死霊の恋・ポンペイ夜話 他三篇』、田辺貞之助訳、岩波文庫、1982年の内の「死霊の恋」を読み返す。 神学生が僧侶になる儀式の最中に絶世の美女に一目惚れ。僧職に就くも鬱々として思いは晴れないでいるところ、件の遊女クラリモンドが…

シンポジウム「象徴主義と〈風景〉」

チラシを作成したので、こちらでも宣伝を。 連続シンポジウム「象徴主義とは何か」第1回 「象徴主義と〈風景〉 ―ボードレールからプルーストまで」 日時:2017年9月30日(土)10:00 - 18:30 場所:東北大学 マルチメディア教育研究棟6階ホール 主催:東北象…