えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

フランス文学

それは幾らなのか

文学と金の話。 1878年時点では、モーパッサンは日刊紙「ゴーロワ」に記事を掲載することについて ためらいを示していて、その理由として、 定期的に時評文を書けば下らないものができるし、 二時間で書いたものに署名なんかしたくない、という文学的矜持の…

『パリの秘密』の社会史

まっとうな仏文の人になろう。 と思って読書。 小倉孝誠、『「パリの秘密」の社会史』、新曜社、2004年 ウージェーヌ・シューの『パリの秘密』(1842-1843)が大ヒットした、というのは 19世紀仏文学史の「常識」ではありながら、「大衆小説」の流行で片づけら…

グランド・ブルテーシュ奇譚

バルザック、『グランド・ブルテーシュ奇譚』、宮下志朗 訳、光文社古典新訳文庫、2009年 ええと、これは「海辺の悲劇」だったでしょうか。 「黒猫」と似てないこともない、なんとも怖い表題作に、「ことづて」に「ファチーノ・カーネ」 に「マダム・フィル…

推理小説の源流

小倉孝誠、『推理小説の源流 ガボリオからルブランへ』、淡交社、2002年 文字通り推理小説の「源流」を社会学的に考察した上で、 コナン・ドイル以前にエミール・ガボリオがいた、とガボリオ復権を志す書物。 論証に引かれている書物が豊富かつ的確なところ…

ネルヴァル生涯と作品

ネルヴァルの勉強も少しはしようかいなあと。 レーモン・ジャン、『ネルヴァル 生涯と作品』、入沢康夫、井村実名子 訳、筑摩叢書、1985年2刷 原著の出版は1964年で、この時点でのネルヴァル評価としては最良のものかと思うが、 つまりは「シルヴィ」と『オ…

悪魔の発明

ジュール・ヴェルヌ、『悪魔の発明』、創元SF文庫、2005年(10版) ヴェルヌをもうちょっと読みたいな、ということで買い置きの一冊。 原題はFace au drapeau, 1896. とんでもない破壊兵器を発明したマッド・サイエンティストを誘拐した海賊は 秘かに彼に兵…

気球に乗って五週間

ジュール・ヴェルヌ、『気球に乗って五週間』、手塚伸一 訳、集英社文庫、2009年改訂新版第1版 1863年時点アクチュアルな話題満点のアフリカ横断旅行にしてヴェルヌの実質的デビュー作。 おもいっきしもって「野蛮」な現地人は「食人種」というのには困って…

麗しのオルタンス

ジャック・ルーボー、『麗しのオルタンス』、高橋啓 訳、創元推理文庫、2009年 創元推理文庫から出るとは予想外の嬉しい翻訳。 筆のたつこと一級品の現代作家がミステリーみたいな小説書いてみたら こんな風になる、ということで、いやまあ面白くてくいくい…

ゴプセック

バルザック、『ゴプセック 毬打つ猫の店』、芳川泰久 訳、岩波文庫、2009年 「ゴプセック」はいかにもいかにもバルザックであるが、「手形」の話がもひとつ ややこしくて、その点で、「毬打つ猫の店」のほうがとっつきやすくて明快で面白い のではないか、と…

悲しみよ こんにちは

フランソワーズ・サガン、『悲しみよ こんにちは』、河野万里子 訳、新潮文庫、2009年 私も人並みに朝吹登水子訳を読んだことがあると思うのだが、 (そいで映画を観てジーン・セバーグええなあ、と思った記憶はある) 見事なまでに何も憶えていないのが、我…

テミドール

そういうえば『テミドール』には邦訳がたぶん二種類はあって、 そのうちの一つがこれ。 G・ドークール、『テミドール 私と私の恋人たちとの物語』、長岡修一 訳、鏡浦書房、1961年 「高級不道徳小説」という帯のキャッチコピーがたまりません。 モーパッサ…

愚者が出てくる、城塞が見える

ジャン=パトリック・マンシェット、『愚者(あほ)が出てくる、城塞(おしろ)が見える』、中条省平 訳、光文社古典新訳文庫、2009年 一言で申し上げて、こいつはいかれてるぜ。 文章の要訣は何ぞ。言葉を短くせよ、言葉を簡略にせよ、言葉を平易にせよ、こ…

狂気の愛

ブルトン、『狂気の愛』、海老坂武 訳、光文社古典新訳文庫、2008年 すごく良いところもあり、よく分からないところも多々あり、 あまりに身勝手な言葉についていけないようなところもあるが、 そういうことを言うていては、ブルトンのように恋多き人間には …

海に住む少女

シュペルヴィエル、『海に住む少女』、永田千奈 訳、光文社古典新訳文庫、2006年 表題作だけは読んだことがありました。これはやはり傑作。 全篇「です・ます」で訳されているのが新しいところかと思う、よい選択。 表題作と「飼い葉桶を囲む牛とロバ」はよ…

オンディーヌ

ジロドゥ、『オンディーヌ』、二木麻里 訳、光文社古典新訳文庫、2008年 実に活き活き躍動感のあるオンディーヌは、古典「新訳」の成功の ひとつと評価していいのではないかと思う(けど既訳を知らないので なんともいえないか)。初めて読みましたが、なん…

地軸変更計画

ジュール・ヴェルヌ、『地軸変更計画』、榊原晃三 訳、創元SF文庫、2005年 『月世界へ行く』から20年、「大砲クラブ」の面ふたたび登場で、 大砲を垂直にぶっ放せば月旅行、水平に撃てば今度は「地軸変更」 という馬鹿馬鹿しさが素晴らしく、情けない落ちも…

月世界へ行く

ジュール・ヴェルヌ、『月世界へ行く』、江口清 訳、創元SF文庫、2005年(新版) 月に打ち上げた大砲が、軌道が逸れて一周して帰ってくるだけ といえばだけの筋で(女性が一人も出てこないことも含めて) まあヴェルヌらしいことである。 そうすることでファ…

ランボー 精霊と道化のあいだ

中地義和、『ランボー 精霊と道化のあいだ』、青土社、1996年。 実は先日、「ランボーが分からない」と告白したところ、 「文学研究やめたほうがいいんじゃない」と、と同僚に言われて しまい(うるうる)、返す言葉もないので、おとなしく勉強してみる。 一…

セビーリャの理髪師

ボーマルシェ、『セビーリャの理髪師』、鈴木康司 訳、岩波文庫、2008年 はじめてちゃんと読む。 喜劇としては大変によく出来た作品で、コメディー・フランセーズでやれば 今でも笑いの絶えない芝居に十分仕上がると思う。駆け引きと勘違いは マリヴォー的と…

第三の書

ラブレー『第三の書』宮下志朗訳、ちくま文庫、2007年 ようやく読了。膨大な量の注釈に思いのほかてこずったか。 第一、第二の書にはなんだかんだ言っても福音主義の思想(に付随するソルボンヌ批判) の啓蒙的意図ははっきりしているのだけれど、十年後の第…

マノン・レスコー

アベ・プレヴォ『マノン・レスコー』河盛好蔵 訳、岩波文庫、1997年(73刷)。 恋愛には金が必要である、という赤裸な真実を語った書であるということにまず注目。 恋は富よりもはるかに強い。恋は財宝よりも富裕よりもはるかに強い。けれど恋はそれらの力を…

絶対の探求

バルザック『絶対の探求』水野亮 訳、岩波文庫、1978年(27刷改訳)。 ・端から端まで大変にバルザックらしい作品。 ・「絶対元素」とは今で言えば結局「素粒子」のことになるのだろうか。 ジョゼフィーヌが言う通り、分析するのと創造するのは別事だと言わ…

ルイ・ランベール

『バルザック全集』第21巻、東京創元社、1975年所収の『ルイ・ランベール』水野亮 訳。 デシャルムはル・ポワトヴァン論にこの作品を挙げ、彼との類似を指摘しており、たぶんに空想が 混じっている感じではあるけれど、実はフロベールこそがルイ・ランベール…

聖アントワヌの誘惑

『エラクリウス』が「宗教と哲学」をめぐる問題であるならば、 『ブヴァール』はともかく、こちらを忘れるわけにはいかない。 ので苦手な本書を翻訳で取り急ぎ読み返す。 フローベール『聖アントワヌの誘惑』渡辺一夫訳、岩波文庫、1997年(5刷) 「誘惑」の…

シルヴィ

ネルヴァル『火の娘たち』中村真一郎・入沢康夫 訳、ちくま文庫、2003年。 唐突に読む。 最初に読んだ頃には前半が圧倒的に優れているけど、後半はなんかよく 分んねえな、と思ったものでしたが、わたくしも齢を重ねるにつれ、 後半の切ない感じがしみじみ分…

獲物の分け前

ゾラ『獲物の分け前』中井敦子 訳、ちくま文庫、2004年 のっけから最後までゾラ節全開(当たり前だけど)の一冊。 筋だけとればなんでもない、 貪欲な投機人がやりたい放題してる間に、妻は義理の息子との不倫にふけりました。 それだけの筋でこれだけ書いて…

名編集者エッツェルと巨匠たち

私市保彦『名編集者エッツェルと巨匠たち フランス文学秘史』新曜社、2007年 をむきになって二日で読んだ。 19世紀フランス文学研究者を自称するものは皆買って読むべき本である。 「高い」とか「自分には関係ない」とか、言い訳にもなりません。 と、買った…

フランス・ルネサンスの人々(2)

やはり最後まで読まねばいけないもので、セバスチヤン・カステリヨンも含めた 3人(カルヴァン、ロヨラ)を合わせるところに重要な意義があった。 つまりは元の『三つの道』には、解説の大江健三郎いうところの 「さしせまったメッセージが流露している」の…

フランス・ルネサンスの人々

まだ読了じゃないけれど。 渡辺一夫『フランス・ルネサンスの人々』岩波文庫1995年(5刷) ルネサンスを知るにはまずこれを読みたまえ、というような見事な書物だと 素直に思う。渡辺一夫はこんなにえらい先生だったとは知らなかったこと、多少反省。 つまる…

絵画について

「文学」はやや苦しいか。いやそうでもあるまい。 ディドロ『絵画について』佐々木健一訳、岩波文庫(青帯)2005年。 こういうテクストを訳すことには意味があって、 こういうテクストを訳す人の存在も大切であるということ を信じること。その信念を貫くこ…

消えた印刷職人

たまたま目にとまった一冊。 ジャン=ジル・モンフロワ『消えた印刷職人』宮下志郎訳、晶文社、1996年(2刷)。 歴史の先生が著したフィクション体裁の薄い書物。 ルネサンスの印刷職人の様子がよく分かってなかなか興味深い。文字通りの 職人技かつ人手もか…

フランス田園伝説集

放心してモーパッサンも読んでいない。ので代わりに。 ジョルジュ・サンド『フランス田園伝説集』篠田知和基訳、岩波文庫、2006(7刷)。 以前に読んだものを重版を機に読み返している最中。 民間伝承の採集というのは地方色に関心の向いたロマン主義的精神…

ミクロメガス、この世は成り行き任せ

つづいてヴォルテール。冒頭二編。 キーワードは「相対」につきる。 別の価値基準を提示することで、既存のそれを疑問に付すこと。 言い換えれば「外からの視点」によって相対化するということ。 コント・フィロゾフィックの典型といっていいだろう。 すこぶ…

カンディード

かわりにフランス文学のこと。 『カンディード 他五篇』 植田祐次訳 岩波文庫2005年まだカンディードしか読んでないけど。 ひっさしぶりに読んであまりに覚えてないことに 愕然とするのはいつものことで(本当に読んだのか)、 そういうのはおいといて、実に…