えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

フランス文学

おおファンタスティック

竜之介さん、あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いもうしあげます。 またしてもあれこれ申し上げたくなるコメントありがとうございました。 メリメとネルヴァルの全集は私も欲しいと思います。 前者6冊が出たのはなんと戦前。ネットだと美…

モーパン嬢

テオフィル・ゴーチエ、『モーパン嬢』、井村実名子訳、上下巻、岩波文庫、2006年 フランス文学史で序文だけが名高い作品(1835年刊行)を諸事情で急ぎ読む。 面白いところは色々あるが、いかんせんいささか冗長ではあるまいか。 もっともそんなこといったら…

エッフェル塔の潜水夫

ところでもうずいぶん立つけれど、 ピエール・カミ、『エッフェル塔の潜水夫』、吉村正一郎訳、ちくま文庫、1990年 を読みました。 原著は、Pierre Cami (1884-1958), Le Scaphandrier de la Tour Eiffel, 1929. ユーモア小説とミステリーと冒険ものとを全部…

大人の読書

なんとなく、今さらのように、 小倉孝誠、『「感情教育」歴史・パリ・恋愛』、みすず書房、「理想の教室」、2005年 を読む。まことに明快明瞭。 『感情教育』は主人公フレデリックに語りの焦点が当てられているにもかかわらず、 その主人公に対して批判的距…

ユゴーの呪縛

連休はあちこち遠征。 土曜日マラルメ。評論「詩の危機」を読む第一回目。2ページ。 あらゆる言説を韻文の内に叩きこんだヴィクトール・ユゴーは 自らの存在で詩句そのものを体現するがの如くであり、 余人をして発話する権利さえもを奪い取ってしまった。 …

疲れた時にはヴェルレーヌ

エコパリのモーパッサンについてのアンケート若者編は、 あと四人ばかり残っているけど、今日はお休み。 思ったよりも大変であった。 ちょっと前に描きなおしてみたヴェルレーヌ(1844-1896)でも掲載し、 詩を一遍訳してみる。拙い訳で恐縮です。 Nevermore (…

マンデスとトリスタン・ベルナール

カチュール・マンデス(1841-1909)ってどんな顔なのかなあ、 とか思ってしまったのが運の尽き。 描いちまったんだな、これがまた。 うーむ、さすがはパトロン。 にしてもヒゲと髪に相当てこずる。 頼むから剃ってくれ、刈ってくれ、と言いたい。 せっかくなの…

超男性

ジャリ、『超男性』、澁澤龍彦訳、白水社、1975年(1978年6刷) 初めて読む。驚いた。原作1902年。 前半に出てくる「永久運動食」を食う自転車乗りと汽車との一万マイル競走は、道具立ての古さにもかかわらず、今でも新鮮さを失わない見事な疾走感。 SFとは…

描いたようなマルスリーヌ

今日は宿題をお休みし、 趣向を変えてマルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール。 絵に描いたような、て元が絵なので当然ですが。 ジョルジュ・ポンピドゥーのアンソロジー詩集には、 彼女の作が2篇載っていて、一個はもちろん「サアディの薔薇」。 他方は « Qu…

お次はヴァレット

おもむろに一息で読んだ本。 出口裕弘、『辰野隆 日仏の円形広場』、新潮社、1999年 半ばまではとても面白い。後半はやや「ふくらまし感」ありか。 というか、この本全体がそれ自体として、日本における仏文学に携わってきた人の思いの記録ということで、 こ…

レコー・ド・パリが読めるなんて

これまた一年ぶりに描きなおしのサミュエル・ベケット。 なぜベケットか(ただの条件反射なので、特に意味はない)。 なんとなくデュラスの『苦悩』と「待ち」つながりで、て、ただのこじつけです。 『ゴドーを待ちながら』の場合、客観的にはゴドーさんはま…

苦悩

デュラスのLa Douleur『苦悩』は作品集だけれど、最初の「苦悩」だけをとりあえず読む。 実際のところは、夫の帰還後に書かれたもののようなので、 回想の時点で多かれ少なかれ物語化が起こっているのは確かなのだろう。 待つとはいつでも辛いものだけれども…

死者を起こせ

フレッド・ヴァルガス、『死者を起こせ』、藤田真利子訳、創元推理文庫、2002年(2008年再販) 先史時代専門のマティアス(マタイ)、中世のマルク(マルコ)、第一次大戦のリュシアン(ルカ)の 3人の歴史学者(いずれも35歳、定職に就けずに「クソ溜」には…

マラルメ論

原書はこちらで、 Jean-Paul Sartre, Mallarmé La lucidite et sa face d'ombre, Gallimard, coll. "Arcades", 1986. ま、本当に読んだのはこちらです。 ジャン=ポール・サルトル、『マラルメ論』、渡辺守章・平井啓之訳、ちくま学芸文庫、1999年(2010年3…

フロベールはすごい

レポートを読むか絵を描くかしかないとなると、だんだん「究極の選択」じみてくる。 今日は55本。都合146本。おお、終わりが見えてきた。 みなさん大層変換ミスが多いのが困りものですなあ。 (しかし「侵食をともにする」とかいうのは、本当にただの誤変換…

夜鳥

モーリス・ルヴェル、『夜鳥』、田中早苗訳、創元推理文庫、2003年 ようやく読みました。 そもそもモーリス・ラヴェルと間違えやすい上に、創元推理文庫の棚では「モーリス・ルブラン」の後ろにちょこんとあって、その紛らわしさたるや見逃すこと必至であっ…

カルメン

さて、かくして、今となっては西欧白人の一方的おしつけイメージの代表となってしまったかの感のある メリメ、『カルメン』、杉捷夫訳、岩波文庫、1929年第1刷(2009年第89刷) をはらはら読んでいたら(それにしても80年ものの翻訳とは凄い)、本当の話、「…

夜間飛行

サン=テグジュペリ、『夜間飛行』、二木麻里訳、光文社古典新訳文庫、2010年 ひとたびサンテックスの手にかかると、労働は、人間が人間であることの存在証明と化し、命がけの責務こそが、人間を崇高な存在たらしめる。ストイシズムに満ちる人物達の姿は、神…

異邦の香り

野崎歓、『異邦の香り―ネルヴァル『東方紀行』論』、講談社、2010年 事情があって二日で急ぎ読む。 『東方紀行』を読み進めながら、面白いところを拾い上げていく手つきはお手の物で、 ところどころ、アルトーやジュネといった20世紀作家と繋げるところもま…

ボリス・ヴィアン伝

寝る前本を読了。 フィリップ・ボッジオ、『ボリス・ヴィアン伝』、浜本正文 訳、国書刊行会、2009年 終戦から残りの40年代までだけで、記述は全体の三分の二ぐらいに至ると思うのだけど、 ほんの五年足らずの間に『日々の泡』はじめの小説を書き、ヴァ―ノン…

馬車が買いたい!

鹿島茂、『新版 馬車が買いたい!』、白水社、2009年 実は旧版を持っていなかったので、どの辺が新しいのかはよく分からないんだけど、 主に19世紀前半のフランス社会の風俗を詳しく説いてお見事で、 この時代に関心のある者にとっては、やはり必読の書。 モ…

第四の書

ようやくに読み終える。 ラブレー、『第四の書』、宮下志朗 訳、ちくま文庫、2009年 嵐におびえ、クジラにおびえ、パニュルジュはえらいことになって大変なんだけど、 別段彼に罰が与えられるわけでもなんでもなく話がおもむろに終わるところが さすがはラブ…

光になった日

本日おもむろに光ファイバーになった。 なにか変ったんだろうか。 モーパッサンのクロニックは全然訳されてこなかった。 と常々不平を漏らしているのだけれど、その状況下、これは大変に貴重。 「役人」、鹿島茂 訳、バルザック『役人の生理学』、ちくま文庫…

それは幾らなのか

文学と金の話。 1878年時点では、モーパッサンは日刊紙「ゴーロワ」に記事を掲載することについて ためらいを示していて、その理由として、 定期的に時評文を書けば下らないものができるし、 二時間で書いたものに署名なんかしたくない、という文学的矜持の…

『パリの秘密』の社会史

まっとうな仏文の人になろう。 と思って読書。 小倉孝誠、『「パリの秘密」の社会史』、新曜社、2004年 ウージェーヌ・シューの『パリの秘密』(1842-1843)が大ヒットした、というのは 19世紀仏文学史の「常識」ではありながら、「大衆小説」の流行で片づけら…

グランド・ブルテーシュ奇譚

バルザック、『グランド・ブルテーシュ奇譚』、宮下志朗 訳、光文社古典新訳文庫、2009年 ええと、これは「海辺の悲劇」だったでしょうか。 「黒猫」と似てないこともない、なんとも怖い表題作に、「ことづて」に「ファチーノ・カーネ」 に「マダム・フィル…

推理小説の源流

小倉孝誠、『推理小説の源流 ガボリオからルブランへ』、淡交社、2002年 文字通り推理小説の「源流」を社会学的に考察した上で、 コナン・ドイル以前にエミール・ガボリオがいた、とガボリオ復権を志す書物。 論証に引かれている書物が豊富かつ的確なところ…

ネルヴァル生涯と作品

ネルヴァルの勉強も少しはしようかいなあと。 レーモン・ジャン、『ネルヴァル 生涯と作品』、入沢康夫、井村実名子 訳、筑摩叢書、1985年2刷 原著の出版は1964年で、この時点でのネルヴァル評価としては最良のものかと思うが、 つまりは「シルヴィ」と『オ…

悪魔の発明

ジュール・ヴェルヌ、『悪魔の発明』、創元SF文庫、2005年(10版) ヴェルヌをもうちょっと読みたいな、ということで買い置きの一冊。 原題はFace au drapeau, 1896. とんでもない破壊兵器を発明したマッド・サイエンティストを誘拐した海賊は 秘かに彼に兵…

気球に乗って五週間

ジュール・ヴェルヌ、『気球に乗って五週間』、手塚伸一 訳、集英社文庫、2009年改訂新版第1版 1863年時点アクチュアルな話題満点のアフリカ横断旅行にしてヴェルヌの実質的デビュー作。 おもいっきしもって「野蛮」な現地人は「食人種」というのには困って…