えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

日本文学

プラネタリウムのふたご

そういうわけで、いしいしんじを立て続け。 『ぶらんこ乗り』、新潮文庫、2008年(13刷) 『麦ふみクーツェ』、新潮文庫、2005年(2刷) 『プラネタリウムのふたご』、講談社文庫、2006年 『ポーの話』、新潮文庫、2008年 『麦ふみ』と『ふたご』と『ポー』…

編集者 国木田独歩の時代

黒岩比佐子、『編集者 国木田独歩の時代』、角川選書、2007年 独歩は面白い、と思い始めていたところにこの本は嬉しく、 予想以上に面白すぎる。 今日、自然主義作家としてのみ有名な国木田独歩は、 しかし生前とにかく本が売れなかった。一方で後年の彼は …

重右衛門の最後

田山花袋『蒲団・重右衛門の最後』、新潮文庫、2004年(77刷) 明治34年『野の花』をきっかけに花袋と正宗白鳥との間にちょっとした論争があり、 田山君は「小主観」と「大自然の主観」とか訳の分からないことを言って攻撃されたのであるが、 そのあたりのこ…

猫町

萩原朔太郎『猫町 他十七篇』、岩波文庫、2007年(13刷) 「猫町」はたいへん変なお話で印象深い。異様なまでの緊張感が炸裂した瞬間、 猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫が出現するところは実にぞくぞくする。 ところでその次に「ウォーソン夫人の黒猫」という短…

蒲団(2)

ところで『蒲団』において明確なのは、時雄君のは恋愛というより、田中君の登場によって掻き立てられる 嫉妬こそが中心を占めているということであり、「他者の欲望を欲望する」というルネ・ジラール式 の模範的事例となっていることだ、と思う。 その意味で…

蒲団

田山花袋『蒲団・一兵卒』岩波文庫、2002年(改版1刷) 率直に申し上げてあんまり上手ではない。 作品としての完成度からいえば、「今読んだら稚拙凡庸」(白鳥)などと言うのはいささか極端にしても、主人公への批判的な造型力不足からくる不透明で濁った感…

後日の話

河野多恵子『後日の話』文春文庫、2002年。 4冊目ともなれば河野作品についてのイメージもなんとなく出来てくるものだけれど、 しかしなかなか焦点が定まってこないのである。「解説」に川上弘美の言う通り、 なにかが「ズレている」のは分かる。でも何がど…

みいら採り猟奇譚

河野多恵子『みいら採り猟奇譚』新潮文庫、2006年(2刷) 主題というならマゾヒスムということになるのだろう。 でもそれだけが書いてあるという以上にずっとたくさん、それ以外のことが書かれている。 戦時とはいえども淡々とした日常の描写が積み重なれて…

秘事・半所有者

河野多恵子『秘事・半所有者』新潮文庫、2003年 簡にして要を得た菅野昭正の解説の通り、「『秘事』は絵に描いたように幸福な夫婦、幸福な家庭の小説」。 派手な事件はなんにもないままささやかなエピソードが連ねられ、そのまま最後まで行き着いてしまうこ…

不意の声

河野多恵子『不意の声』講談社文芸文庫、2005年(4刷) たいへん気持ちの悪い小説である(というのは褒め言葉だと思うんだけど)。 お母さんを殺すまでに至る経過をこと細かく追っていくところが何より怖く、 人を殺すことの(文学的)リアリティーみたいな…

忘却の河

福永武彦『忘却の河』新潮文庫、2007年(33刷改版) 私には福永に関していろいろと先入見があるのだけれど、 結局のところ二日で読んでしまう。とてもよく出来た小説だ。 引っ掛かりがあったのは「忘却の河」と題される第一章における「実験的」な手法であり…

乞食学生

発疹といえば太宰に「皮膚と心」という作品があるのだけれど、 ここに『ボヴァリー夫人』の話が出てくるのである。 そう言えば太宰にはフランス文学の引用、参照が意外?に多い、ということに この度の再読では気づかされる。 で、「乞食学生」『太宰治全集…

武蔵野

話変わって。 十代の頃に『破戒』を読んでどよーんとなって以来、 自然主義なんて御免だぜ、と思ったか思わなかったか、 とにかく何にも読まないままに来た。 しかし因果は巡る風車、かどうかもよく分からないけど、 吉田精一を読んで、独歩は面白いかも、と…

畜犬談

モーパッサンが猫なら、太宰は犬、というわけだかなんだか なんしかめちゃくちゃ面白い。笑いが止まりません。 太宰治「畜犬談」『太宰治全集』3巻、ちくま文庫、2001年、引き続き。 私は、犬については自信がある。いつの日か、必ず喰いつかれるであろうと…

女の決闘

話が出たので「走れメロス」を読む。これはほんとに良い小説。 それからぱらぱら読み耽ったのが「女の決闘」『太宰治全集』3、ちくま文庫、2001年。 太宰という人はつくづくうまいなあと感心。 19世紀ドイツの無名作家の作品(鴎外訳)を土台に、人物の変転…

十五年間

もっと気弱くなれ! 偉いのはお前じゃないんだ! 学問なんて、そんなものは捨てちまえ!(太宰治「十五年間」ちくま全集8巻、225ページ)

パンドラの匣

話が出て「ヴィヨンの妻」を読み、つづいて思わず読み直す。 太宰治「パンドラの匣」ちくま文庫全集8巻 恥ずかしながら、この作品が以前からとても好きなのである。 まったくもって実にナイーヴだ。けれどもそのナイーヴさに 厭味がなく、実になんともよく書…

如是我聞

ふと目にとまって読んだらびっくりした。 太宰治「如是我聞」、ちくま文庫全集10巻。 ここでL君という「外国文学者」がこっぴどくやっつけられているのは 忘れていた。志賀直哉のことは覚えていたけども。 太宰の文章を久し振りに読むと、免疫がなくて面食ら…