えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

読書

ナボコフ、フロベールと5、6冊の本/クロ・ペルガグ「カラスたち」

「どうしたら良き読者になれるか」、というのは「作家にたいする親切さ」といっても同じだが――なにかそういったことが、これからいろいろな作家のことをいろいろと議論する講義の副題にふさわしいものだと思う。なぜなら、いくつかのヨーロッパの傑作小説を…

「散歩」、あるいは人生の空虚/テテ「君の人生のサウンドトラック」

「散歩」は1884年5月、『ジル・ブラース』に掲載された作品。 40年間、実直に会社に勤めていた男性、ルラが、ある春の宵、陽気に誘われるようにして街に出る。凱旋門の近くの店のテラス席で食事をとり、さらにブーローニュの森まで散歩することに決める。行…

なぜ傘が要るのか/テテ「歓迎されない人」

モーパッサンの短編「傘」についての補足。 この小説を今の目で読んでよく分からないのは、そもそもオレイユ氏はなぜ毎日職場へ傘を持って通勤しているのか、ということである。ここ数日雨が降っていたから、というわけではない。 雨が降っていなかったのは…

「雨傘」、あるいは吝嗇/フランス・ギャル「もちろん」

「雨傘」は1884年の作。かつて岩波文庫に杉捷夫訳で入っていたので、日本でもよく知られた短編の一つであろう。吝嗇はノルマンディー人の特徴の一つとして農民を扱った作品に見られるテーマであるが、ここではそれが、都会に住む小市民の心性として描かれて…

「ローズ」、あるいは女の欲望/「抵抗せよ」

「ローズ」(1884)は初読時には面白く読めるが、再読、三読時にはあれこれと弱さが目につく作品である。合理性や本当らしさに欠けるのは否めまい。 冒頭はカンヌの花祭りにおける花合戦の情景が描かれているが、プレイヤッド版の注釈によれば、1884年には1…

燃やしてはいけないもの/ヴァネッサ・パラディ「空と感情」

『ハリー・クバート事件』を読んでいたら、はじめの方にこんな場面が出てくる。殺人事件の容疑者として疑われた師匠たる大作家に、手書き原稿などの品を燃やしてくれと、物語の語り手が頼まれるのである。 原稿は大きな炎となって燃え上がり、ページがめくれ…

移行テスト中につき/クリスチーヌ&ザ・クイーンズ「クリスチーヌ」

はてなダイアリーからはてなブログに移行するとどうなるのかを実験中につき、いろいろ試してみております。とは言え、何を書いたものか。 本日視聴した動画。クリスチーヌ&ザ・クイーンズは2014年の一番の驚きだったといってよいでしょう。この緊張感と凛々…

愛の根の深さ

学会の行き帰りにピエール・ルメートルの『傷だらけのカミーユ』を読む。いやはや暗いにもほどがあるのではないか、ピエール・ルメートル。ヴェルーヴェンが可哀相すぎる。思えば『その女アレックス』には、最後のところでヒロインに対するぎりぎりの同情の…

浅草のどじょう屋

あるアンソロジーで読んだ『放浪記』の一節が記憶に残っているので、現物を確かめようと思って読み始めたら、読めども読めども出てこない。ようやくたどり着いたのは、戦後に書かれた第三部であった。 (三月✕日) うららかな好晴なり。ヨシツネさんを想い出…

うまくいかないこともある

最近読んだ本から、備忘のために脈略のない引用を残す。 トビを買いたいと思ったのは、雪がたくさんふった年のことだ。 (ユベール・マンガレリ、『おわりの雪』、田久保麻里訳、白水Uブックス、2013年、5頁) 準備はなにもいらない。学校の成績なんて関係な…

密度の濃い人生

まる二日間、部屋の中を片づける努力をする。 努力は努力。 長らく、寝る前用だった シモーヌ・ベルトー、『愛の讃歌 エディット・ピアフの生涯』、三輪秀彦訳、新潮社、1971年 をようやく読み終える。なんだかずいぶん長かった。 つまるところ、ピアフの恋…

エッフェル塔は5フラン

写真を貼れることを、おもむろに思い出す。 ご近所のカモさん。お名前は分かりません。 古書市で見つけた本。 Exposition de 1889. Guide Bleu du Figaro et du Petit Journal, 1889. 万博に関しては研究がたくさんあるので、あまり近づかないようにしている…

備忘の読書録

備忘のために、て既に読んだことを忘れかけている、読んだ本の列挙。 柳瀬尚紀、『翻訳はいかにすべきか』、岩波新書、2000年(2011年2刷) つまりはまあ、「心してせよ」ということであります。 以下怒涛の日本語関連。順不同。 中村明、『語感トレーニング…

かつて仏文研究室で

採点と準備と書類書きに追われる日々。 加藤周一の『羊の歌』を読むと、 戦時中に東大の仏文研究室が一種のアジールとしてあったことが窺えて感慨深い。 無力ではあったに違いないが、そこに良識が息づいていたということを、 記憶に留めておいてもよいだろ…

生存確認とフランス・ミステリ

とりあえず生きております。 5月26日(土)がマラルメ。「エロディアード」読み切れず。 先週末、関東遠征。おもに三四郎池をじっくり観賞。 100年の間に、植物が育ちまくり。 この春、文庫で読んだフランスのミステリを順不同で列挙。すべて創元推理文庫。 …

主語がないなんて

一週間が怒涛の勢いで過ぎ、週末沈没の日々が始まる。 発作的に、 水村美苗、『日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で』、筑摩書房、2008年 を読み、これを読んだら絶対読み返したくなる『三四郎』(岩波文庫)を読み、 丸山真男、加藤周一、『翻訳と日本の近…

丙類を思う

相変わらず、翻訳を見直して、会議をして、もう3月も終わります。 22日、ヴェルレーヌとマラルメの充実の一日。 飲み過ぎて電車寝過ごし、あやうく終電を逃しかける。 23日から25日まで新潟へ。まだ雪降って寒かったのお。 今日ぱらぱら読んで、ほうほうと唸…

レアリスムじゃないかも

日記を書く余力のないまま日がどんどん過ぎる。 6日慶事で関東遠征。 この一月ばかりの間に二度風邪を引いたので、 一度目で『Xの悲劇』、二度目で『Yの悲劇』を読み、 遠征の行き帰りに『Zの悲劇』(いずれも越前敏弥訳、角川文庫)を読み、 勢いで『レーン…

気疲れの日々

はじめはいろいろ疲労がたまる。 16日マラルメ『賽の一振り』ひとまず読了。 かりに賽が振られても、偶然は廃棄されず、ただ場所のみがあるのであるが、 もしかすると遥か天上に北斗七星のような星が瞬きはじめるのかもしれず、 つまり地上では成し遂げられ…

研究者の翻訳

久しぶりに大きな声出すと、喉が(というか口が)渇くなあ、 と、桜を眺めながら思う日々。 読みかけの本の中に厳しいお言葉があったので、引いておく。 吉川幸次郎を批判するのは、何といっても、「名訳」を企図しない文学研究者の筆頭的存在と、彼を目して…

近代都市パリの誕生

北河大次郎、『近代都市パリの誕生 鉄道・メトロ時代の熱狂』、河出ブックス、2010年 主に前半が鉄道、後半がメトロのお話。 鉄道を施設するということは、単に引けばいいやないかというものではなく、 都市あるいは国土の機能と構造とは如何にあるべきか、…

ナポレオン伝説とパリ

杉本淑彦、『ナポレオン伝説とパリ 記憶史への挑戦』、山川出版社、2002年 軍人には何の関心もないので、ナポレオンその人には興味が湧かないのだけれど、 しかし19世紀フランスにおいて、「ナポレオン」はやはり無視できないね、 と、今さらのことを今さら…

歴史がつくった偉人たち

長井信二、『歴史がつくった偉人たち 近代フランスとパンテオン』、山川出版社、2007年 1885年にヴィクトール・ユゴーが亡くなった時、 彼の遺体をパンテオンに納めるかどうかで議論があって、 モーパッサンはそれを話題に記事を一本書いている モーパッサン…

異文化間コミュニケーション入門

鍋倉健悦、『異文化間コミュニケーション入門』、丸善ライブラリー、2009年(9刷) 異文化間コミュニケーションを学問として考えるための入門書。 文化とコミュニケーションの関係、そもそもコミュニケーションとはどういうものか、 言語はどのよにコミュニ…

キムチ

ウーク・チャング、『キムチ』、岩津航 訳、青土社、2007年 めちゃ面白いからお勧めです!!! と、あからさまな宣伝を今になってぶってもしかたあるまいが、 読んで仰天、私の出身研究室が思いっきりそのまんま舞台なの! 「小林教授」にモデルがあるとすれ…

ハリウッド100年のアラブ

村上由見子、『ハリウッド100年のアラブ 魔法のランプからテロリストまで』、朝日選書、2007年 『イエローフェイス』と対になっているようでいて、実はだいぶ違うコンセプトで書かれたもの。 本書ではたんにハリウッド映画そのものを分析するのではなく、ア…

イエロー・フェイス

村上由見子、『イエロー・フェイス ハリウッド映画にみるアジア人の肖像』、朝日選書、2003年(4刷) 実にたくさんの映画が挙がっていてまことに労作。 早川雪州からジャングルの猿から気がつけば経済大国まで、映画は全然見たことなくても 話自体は非常によ…

愚者が出てくる、城塞が見える

ジャン=パトリック・マンシェット、『愚者(あほ)が出てくる、城塞(おしろ)が見える』、中条省平 訳、光文社古典新訳文庫、2009年 一言で申し上げて、こいつはいかれてるぜ。 文章の要訣は何ぞ。言葉を短くせよ、言葉を簡略にせよ、言葉を平易にせよ、こ…

天使の蝶

プリーモ・レーヴィ、『天使の蝶』、関口英子 訳、光文社古典新訳文庫、2008年 五つ星のお勧めの一品。化学、生物学の知識をネタに繰り広げられる SF的世界はユーモアとアイロニーに満ちていずれも印象深い。 実はNATCA社のセールスマン、シンプソン氏につい…

「文学研究」文化と帝国主義

エドワード・W・サイード、『文化と帝国主義』、大橋洋一 訳、みすず書房、2巻、1998、2001年 ハンチントンよりよっぽど分かりやすくは書かれていないので なかなか歯ごたえのある本で、感銘というより衝撃を受ける。 (あえて言えばハンチントンとは知性の…