読書
小林康夫『若い人のための10冊の本』、ちくまプリマー新書、2019年 この本は、文字通りに青少年に向けて10冊の本を薦める、というのとはちょっと趣が違っている。ここで挙げられるのは著者自身が人生の中で出会ってきた本たちだ。「本と出会うとはどういうこ…
デイヴィッド・ロッジ『小説の技巧』、柴田元幸・斎藤兆史訳、白水社、1997年(2016年24刷) とても売れているこの本も、つい最近に知って読んだ次第。 本書は新聞日曜版の連載をまとめ直したもの。各回、小説の技法に関するテーマを一つ取り上げ、作品から…
トーマス・C・フォスター『大学教授のように小説を読む方法 増補新版』、矢倉尚子訳、白水社、2019年 恥ずかしながらこの本の存在をずっと知らずにいた。仏文だからというのは言い訳にもなるまい。ま、そんなことはどうでもよく、この本はたいへん面白く読…
推薦書リストの話の続き。 最近、巷の書店で出会って、おおまだ現役だったのかと驚いた本。 桑原武夫『文学入門』、岩波新書、1950年1刷(63年31刷改版、2016年87刷) 「文学は人生に必要である」と堂々と述べるその言葉がなんとも眩しい。1950年にはまだテ…
以前より、推薦図書リストのようなものを探しているわけだが、そうした類のものが難しいのは、そもそもからして多分に教育的意図をもったものである上に、ややもすると威圧的なものになってしまうという理由があるように思われる。 『教養のためのブックガイ…
タイトルを見て最初は「石井先生がそんな本書いちゃだめー」と思ったが、ファンなので黙って購読。 石井洋二郎『危機に立つ東大 ――入試制度改革をめぐる葛藤と迷走』、ちくま新書、2020年 実際に読んでみれば、もちろんこれは時流に乗った浅薄な煽り本などで…
高浜寛『ニュクスの角灯』第6巻、リイド社、2019年 この『ニュクスの角灯(ランタン)』は、明治11年1878年に始まる。舞台は長崎。骨董屋「蛮」に奉公に出た美世は、パリ万博で西洋の品を買い付けて帰国した青年、百年と出会う。美世は商売の基礎を学びなが…
ミッシェル・オスロの話の続き。 高畑勲に私がもっとも感謝していることは、ミッシェル・オスロの作品を日本へ紹介してくれたことだ。 高畑勲『アニメーション、折りにふれて』、岩波現代文庫、2019年 に収録されている「『キリクの魔女』の世界を語る」とい…
毎年、6月はバカロレアのシーズンで、今年はどんな問題が出たかとニュースになるが、その時に、ふと読みだしたら止まらずに、一気に読んでしまったのが、 中島さおり『哲学する子どもたち バカロレアの国フランスの教育事情』、河出書房新社、2016年 だった…
Tsさんに存在を教えてもらって、そんな翻訳が出ていたなんて知らなかったなあ、と感動したので読んでみた本。 エミール・ファゲ『読書術』、石川湧訳、中条省平校注、中公文庫、2004年 もとは戦前に出ていたものの復刊であり、ごりごりの直訳調は今となって…
北村薫のいわゆる「円紫さんと私」シリーズは、今年で登場以来30年になるが、今も人気のある作品であることは言うまでもない。語り手の「私」、探偵役の落語家春桜亭円紫をはじめとした登場人物がいずれも生き生きと描かれていることはもちろん、この作品に…
「どうしたら良き読者になれるか」、というのは「作家にたいする親切さ」といっても同じだが――なにかそういったことが、これからいろいろな作家のことをいろいろと議論する講義の副題にふさわしいものだと思う。なぜなら、いくつかのヨーロッパの傑作小説を…
「散歩」は1884年5月、『ジル・ブラース』に掲載された作品。 40年間、実直に会社に勤めていた男性、ルラが、ある春の宵、陽気に誘われるようにして街に出る。凱旋門の近くの店のテラス席で食事をとり、さらにブーローニュの森まで散歩することに決める。行…
モーパッサンの短編「傘」についての補足。 この小説を今の目で読んでよく分からないのは、そもそもオレイユ氏はなぜ毎日職場へ傘を持って通勤しているのか、ということである。ここ数日雨が降っていたから、というわけではない。 雨が降っていなかったのは…
「雨傘」は1884年の作。かつて岩波文庫に杉捷夫訳で入っていたので、日本でもよく知られた短編の一つであろう。吝嗇はノルマンディー人の特徴の一つとして農民を扱った作品に見られるテーマであるが、ここではそれが、都会に住む小市民の心性として描かれて…
「ローズ」(1884)は初読時には面白く読めるが、再読、三読時にはあれこれと弱さが目につく作品である。合理性や本当らしさに欠けるのは否めまい。 冒頭はカンヌの花祭りにおける花合戦の情景が描かれているが、プレイヤッド版の注釈によれば、1884年には1…
『ハリー・クバート事件』を読んでいたら、はじめの方にこんな場面が出てくる。殺人事件の容疑者として疑われた師匠たる大作家に、手書き原稿などの品を燃やしてくれと、物語の語り手が頼まれるのである。 原稿は大きな炎となって燃え上がり、ページがめくれ…
はてなダイアリーからはてなブログに移行するとどうなるのかを実験中につき、いろいろ試してみております。とは言え、何を書いたものか。 本日視聴した動画。クリスチーヌ&ザ・クイーンズは2014年の一番の驚きだったといってよいでしょう。この緊張感と凛々…
学会の行き帰りにピエール・ルメートルの『傷だらけのカミーユ』を読む。いやはや暗いにもほどがあるのではないか、ピエール・ルメートル。ヴェルーヴェンが可哀相すぎる。思えば『その女アレックス』には、最後のところでヒロインに対するぎりぎりの同情の…
あるアンソロジーで読んだ『放浪記』の一節が記憶に残っているので、現物を確かめようと思って読み始めたら、読めども読めども出てこない。ようやくたどり着いたのは、戦後に書かれた第三部であった。 (三月✕日) うららかな好晴なり。ヨシツネさんを想い出…
最近読んだ本から、備忘のために脈略のない引用を残す。 トビを買いたいと思ったのは、雪がたくさんふった年のことだ。 (ユベール・マンガレリ、『おわりの雪』、田久保麻里訳、白水Uブックス、2013年、5頁) 準備はなにもいらない。学校の成績なんて関係な…
まる二日間、部屋の中を片づける努力をする。 努力は努力。 長らく、寝る前用だった シモーヌ・ベルトー、『愛の讃歌 エディット・ピアフの生涯』、三輪秀彦訳、新潮社、1971年 をようやく読み終える。なんだかずいぶん長かった。 つまるところ、ピアフの恋…
写真を貼れることを、おもむろに思い出す。 ご近所のカモさん。お名前は分かりません。 古書市で見つけた本。 Exposition de 1889. Guide Bleu du Figaro et du Petit Journal, 1889. 万博に関しては研究がたくさんあるので、あまり近づかないようにしている…
備忘のために、て既に読んだことを忘れかけている、読んだ本の列挙。 柳瀬尚紀、『翻訳はいかにすべきか』、岩波新書、2000年(2011年2刷) つまりはまあ、「心してせよ」ということであります。 以下怒涛の日本語関連。順不同。 中村明、『語感トレーニング…
採点と準備と書類書きに追われる日々。 加藤周一の『羊の歌』を読むと、戦時中に東大の仏文研究室が一種のアジールとしてあったことが窺えて感慨深い。 無力ではあったに違いないが、そこに良識が息づいていたということを、記憶に留めておいてもよいだろう…
とりあえず生きております。 5月26日(土)がマラルメ。「エロディアード」読み切れず。 先週末、関東遠征。おもに三四郎池をじっくり観賞。 100年の間に、植物が育ちまくり。 この春、文庫で読んだフランスのミステリを順不同で列挙。すべて創元推理文庫。 …
一週間が怒涛の勢いで過ぎ、週末沈没の日々が始まる。 発作的に、 水村美苗、『日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で』、筑摩書房、2008年 を読み、これを読んだら絶対読み返したくなる『三四郎』(岩波文庫)を読み、 丸山真男、加藤周一、『翻訳と日本の近…
相変わらず、翻訳を見直して、会議をして、もう3月も終わります。 22日、ヴェルレーヌとマラルメの充実の一日。 飲み過ぎて電車寝過ごし、あやうく終電を逃しかける。 23日から25日まで新潟へ。まだ雪降って寒かったのお。 今日ぱらぱら読んで、ほうほうと唸…
日記を書く余力のないまま日がどんどん過ぎる。 6日慶事で関東遠征。 この一月ばかりの間に二度風邪を引いたので、 一度目で『Xの悲劇』、二度目で『Yの悲劇』を読み、 遠征の行き帰りに『Zの悲劇』(いずれも越前敏弥訳、角川文庫)を読み、 勢いで『レーン…
はじめはいろいろ疲労がたまる。 16日マラルメ『賽の一振り』ひとまず読了。 かりに賽が振られても、偶然は廃棄されず、ただ場所のみがあるのであるが、 もしかすると遥か天上に北斗七星のような星が瞬きはじめるのかもしれず、 つまり地上では成し遂げられ…