えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

春に寄す

Au printemps (1881)
細かいことだが正確には「春に(おいて)」の意味だろう。
これは誤訳ではなくて、意訳。
『メゾン・テリエ』初出のこの作品は、いかにも初期のモーパッサンらしい
という印象を抱かせる。出だしの春の欲求の目覚めの高揚と、
後半のシニカルでペシミスティックな恋愛諷刺の落差。
Je vous ai rendu là un rude service, allez.
という肩すかしのような落ち。(訳すのがむずかしい。
「ちょっと手厳しかったですかね、おやおや」てな感じかな。)
単発でとらえればいかにも軽妙なコントだけれど、しかし実は幻滅
の根は深いようだ、ということは『メゾン・テリエ』を通して読むと
ひしひしと感じられる、ようにできている(ショーペンハウアー
の影響がはっきりと見て取れる作品でもある)。
まったく個人的なことだけど「ある朝目覚めると春になっていた」
というこの感覚、フランスに暮らして実感することができたことの
一つだ。季節の移り変わりが実におおざっぱというか大胆というか。
それはまさしく、突然に変わるものだった。