えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

偽作話はつづく

どこから話をしようか。今日はいろいろと進展したみたい。
しつこく探していたら、見つかるもんじゃないですか。
Internet Archive: Digital Library of Free Books, Movies, Music & Wayback Machine
になんと、カルフォルニア大学図書館が電子化した
The life work of Henri Rene Guy de Maupassant, embracing romance, comedy & verse, for the first time complete in English. With a Critical Preface by Paul Bourget of the French Academy and an Introduction by Robert Arnot. M. A., London, New York : Printed for subscribers only by M.W. Dunne, 1903.
Vols. 1-4, 7-15.が見つかった。
欠落があるけれど、大変奇麗なPDFで、色つきの挿絵入り。豪華限定版の模様。
で、これは全17巻である。細かいことはよく分からないけれど、要するにこいつは Dunstan の版と
同じものである(らしい)。
改めてネット書店で探せばダンスタン、あるいはこのダンヌ(と読むのか)の版はけっこう
安値でごろごろ出ている。前代のパソコン(通称いも)が突然クラッシュしてなければ
勢いで買ってたかもしれない(今のパソコンは通称フリッツ。ちょっと垢ぬけた。名前があるのはよいことだ)。
で、先日届いた4巻の正体もこれで大体分かったのである。コピーライトWalter Dunneは(別の)本屋の主
であり、そこからすっかり版を借りて来て出版した、という便乗本だったのだ(なーんだ)。
実際「セニシュのオダリスク」の巻は、上記書の第4巻とページ数から何からまったく同じ。
偽作の元凶はやはりダンスタンあるいはダン(ヌ)にあったというわけだ。


さてしかし、上記書をダウンロードして眺めていると、
総インデックス(英題および仏題)は最終巻の巻末にありますよ、
と書いてある。なんと、それは是非見たい。しかし17巻は欠けている!
この時点でふたたびネット書店に駆け込みそうになったけれども、しばし待て。と私は冷静になりました。
まだ探せば出てくるかもしれない。
そこでさらに検索をつづけると、なんとなんと、
Posner Memorial Collection in Electronic Format
に、同じ本が全巻そろって出ている!
こちらは一括ダウンロードはできないのだが、しかし件のインデックスはめでたく閲覧できた。
それによれば、長編、演劇(『家庭の平和』『ミュゾット』)、詩集こみで全289タイトル。
大西忠雄によれば(春陽堂全集3巻)このうち66編が偽作である。
それはつまり全体の2割以上がぱちもんということだな。「最初の英訳全集」とでかく謳っているわりには
ずいぶんとまあ適当なお仕事だことで。
で、なんなら偽作タイトル全部並べたいんだけど、これがなかなか簡単にいかない。
こんな類の本のインデックスがだいたい、ちゃんとしているわけがないのである。
フランス語のアクサン抜けなんて当たり前みたいなもんだが、英仏題ともにBric-à-Bracと
なっている作品は、実は La Baronneで、The Artist's Wife は仏題 Femme d'Artiste で、本当は Le Modèle だ。
リシュパン原作の発覚したThe Man with the Blue Eyes は L'Homme aux Yeux Bleus
となってるけど、実際はL'Homme aux yeux pâles だぞ。
仏訳してどないするっちゅうねん!
という感じで、本文確認しないと胡散臭いものが多数見られる次第。気長にやることにしょう。


で、ここらでやめたいのだけれどもう一点。今日届いた本の話。
これもKさんに教えてもらったことだが、なんと今、
Guy de Maupassant, Countess Satan and Other Tales, UK, Ægypan Press [2006].
は新刊書で出ているのであった。しかも2004年にハードカバーで出したものの
ペーパーバック版だ。これはかなりいい度胸をしている。
だから偽物だって言ってるでしょうが。誰か注意してあげなきゃ駄目じゃないですか。
写真は、正面から撮ると宣伝みたくて悔しいので、かえるに踏まれているところ。
さて、この本、ご丁寧にブールジェの序文とアルノーのイントロつきである。
これまた Dunne の版をそのまま借りてきたのが丸わかりで、実際、翻訳者の名前も原題も
なんにも書いてない。さすがに新しく版を組んでいるが、しかし100年前の翻訳、そのまま使えるんだね
英語は古くならないんでしょうか。
めんどうなので偽作名だけ挙げておく。()内は上記書の巻数と仏語題。
The Artist (I : L'Artiste)
Sequel to a Divorce (II : Rencontre)
In Various Roles (III : Wanda)
Countess Satan (III : Comtesse Satan)
Ghosts (III : Le Noyé)
An Unfortunate Likeness (III : Similitude)
モーパッサンに Rencontre と題した短編は2編あるが、いずれも別もの(ご丁寧なこと)である。
ちなみに「ラルティスト」は、芥川龍之介が言及しているブツであるが、何故フランス語なのだろう?
というわけで、皆さん間違ってもこの本は買わないように(ささやかな営業妨害)。
もっとも偽作に興味のあるマニアさんにはお勧め。ブールジェの紹介文はブールジェらしい
よい文章(正宗白鳥も読んでいた)。これの仏語原文が存在するのかどうか、これがまた分からなかったりするんだけど。


(追記
http://www.pinkmonkey.com/dl/s.asp
にSelected Writings (Vol. 1)というブツが載っている。これまたブールジェ・アルノー
大元の出所はダン(スタン)であろう。テクスト化したPDFで奇麗だけどね。)