えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

身がわり

Le Remplaçant, 1883
風邪心地なのでなるべく気楽なものをと。
1月2日、ジル・ブラース、『マドモワゼル・フィフィ』2版所収。
お正月からこれですか、という感じの艶笑譚。お正月だから、かもしれないけれど。
タイトルは若干軍隊用語的に「交代要員」に近い意味で取りたいところ。
年増の女性が若い男を囲う、というか週一回の「お勤め」に小遣いを払うこと1年半。
ある日勤務で出かけられなくなった男は友人に「代理」を頼む。利益は半々で。
ところが帰ってきた友人は「あんな雑役は倍額以上に値する」と拒絶し、二人は
殴り合いの喧嘩をしました、というお話。corvée というもの軍隊用語な点がミソ。
落ちも相当の腰抜け具合。"La morale est satisfaite." というのは、しかしいかにも
モーパッサらしい諷刺である。ボンドロワ夫人は二人ともを抱えることにして、
老いた両親もパンに欠けることなく、「道徳も満たされたというわけだ」ってまあ。ねえ。
個人的にはボンドロワ夫人は一体いくつだったのかが気になりもするけれど、作者は
巧くぼかしている。いずれにせよ滑稽であると同時になんとも切実というか、
惨めというか、そういう感じが彼女に認められる。
「中庸」を外れた人間というのは古来喜劇の題材なわけで、ここでモーパッサン
彼女に同情を寄せている訳でも別にない。しかしもちろん、批判するのでもない。
誰しも幾分か備えているような、卑俗だったり矮小だったりする面を掴みだすのに
モーパッサンは実に長けている、というようなところだろうか。
冒頭は二人の会話。主筋は騎兵シバルの上官への釈明の台詞から成っており、
彼の訛った台詞がおかしさを増している、わけだけれども、そのニュアンスを
感取するのが難しい。dialecte はモーパッサンを読む上では避けて通れないもので、
農民ものはもちろんだけれど、あるいは外国人のいかがわしいフランス語というのも常に諷刺の
対象になっており、こういうのはなかなか笑えない。
この点はまあ、今後とも継続審理の議題ということにしておこう。