私市保彦『名編集者エッツェルと巨匠たち フランス文学秘史』新曜社、2007年
をむきになって二日で読んだ。
19世紀フランス文学研究者を自称するものは皆買って読むべき本である。
「高い」とか「自分には関係ない」とか、言い訳にもなりません。
と、買った私は偉そうに言ってみる。だって高いんだもん。
(写真は多少ひねくれて、ヴェルヌの『80日間世界一周』。
今でも当時の装丁を模して出版されることが多いのも、エッツェルの巧みさの一例か)
流行の挿絵本で頭角をあらわした敏腕編集者は、バルザックやスタンダール
にもしっかり目をつけ、二月革命ではラマルチーヌの背後で影の活躍を
しつつ、しかしナポレン三世のクーデターでベルギーに亡命。
それでもめげずにユゴーの出版に奔走。恩赦を受けて帰国後は
サンドやらツルゲーネフやらとの交流・出版もありながら、
なんといっても新進作家ジュール・ヴェルヌを発見し、
共作さながらの共同事業で彼を流行作家に育て上げた。
コミューン当時は常に穏健共和派の立場を守り、
死の直前まで出版事業に勤しみ、児童文学の発展に寄与するところ
も大だった。ついでにゾラの処女作の出版までしている。
という訳で、エッツェルの生涯を辿ることは、まさしく
19世紀「フランス文学秘史」を語ることになる。500ページの
分厚さもなんのその。倍の量をしてももっと詳しく語ってほしかったと
思うぐらい、実に盛りだくさんな内容(値段も倍では泣きますが)。
出版事情とか、あるいは挿絵の存在とか、著作権とかを抜きにしては、
地に足のついた全体的な「文学史」を記述することはできない、ということ。
そのことを実に雄弁に語る500ページだと思う。
惜しむらくは、パブリックな活動に重点が置かれるあまり、エッツェルその人の
人物像が深く掘り下げられていないところだろうか。
あと些細なことながら気になるのは、巻末の文献表、日本人の仕事への
目配りが足りてないように思われる点。どうしてなんだろう、と思う。
なにはともあれ、大変勉強になりました。