えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

ある夜の雑感

帰り道、唐突に思いついたことを記しておこう。
私は「モーパッサンが何であったか」について知ることに
関心があるけれど、それよりもこれまでの人が
モーパッサンは何であったか」について積み上げてきた言説に対し、
「それは本当だろうか」と問い直すことのほうに、もっと関心があるので
はないだろうか。と思ったのである。
なるほど。
しかし改めて考えると、これは別に思いつきというほどのものでもないようだ。
そもそも、前者について問いを深めるためには、後者によるしかない(のかもしれない)。
唯一絶対のモーパッサン像というものが存在しえないのであれば、
私自身の固有のモーパッサン像は、他の人たちの言説との差異の積み上げに
よってどうにかこうにか作り上げられるものでしかない。
であるなら先人のご意見に対して「ここはちょっと違うんでないの」という些細な
違和感をその都度掬い上げる作業を通して、私は私自身のモーパッサン像を
形成してゆくことになる。
ということなんだろうか。
一見すると迂回したまわりくどい方法である。
しかしながらこれは要するに、先行研究を概観することが必要不可欠である
という文学研究の基本の基本についてのパラフレーズでしかないじゃないか(と事後的に理解する)。
私の抱く固有のモーパッサン像がオリジナルかつ説得力のあるものとなるためには、
先人の皆さんのご意見の間に割って入って、その中で自分の位置を相対的に定める
しかないのですね。
文学研究とはまあ基本的にそういうものなんだ、
というのが今の私の理解するところなのでした。