えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

阿刀田高の見解

阿刀田高『海外短編のテクニック』、集英社新書、2004年。
ふと手にとって開くと、「脂肪の塊」の話が出てきて、
問題は Boule de suif について、
「脂肪の塊」という訳語はいかがなものか、という点に関して、

往年のフランス文学の泰斗、辰野隆は、
「あぶらまんじゅうは、どうかな」
と言ったということだが、私見を述べれば、これもわるくはないが、非常によいとは言えない。かわいらしさがほしいのだ。
(32ページ)

おお、この問題を考えている人がいたのだ、と私は感慨深いのであるが、氏はつづけておっしゃる。

 つまり、まるぽちゃで、とても色っぽい。だからこそプロイセンの士官が馬車を止めてでも所望したわけである。脂肪の塊ではこの感じが表れない。渾名なのだから”プチプチ”とか、”脂プックリ”とか、そんなところがよいのかもしれない。
(33ページ)

なんと対案までお示しくださっているのである。これは素晴らしい。
が、しかしながら、


プチプチ


っすか。


脂プックリ


でおますか。
うーむ。本当にそれでよいのだろうか。
失礼ながら、さしもの阿刀田高も「これぞ」という解答にはたどりつけなかったように思われる。
というだけの話なのではあった。
しかしびっくりしたな。


ちなみに私の個人的見解は
「脂肪の塊」って何よ? ―モーパッサンを巡って
につらつら書いておりますが、これぞという回答は出せないままなのである。
だが何も進歩がないのもなんなので、またつれづれに考えるに、
ここはひとつ芸妓さんである(違うけど)という点を鑑みて


お玉はん


というのはいかがだろうか。ポイントは「玉」の字の持つ丸み感である。
ついでに、どことなく「おけいはん」みたいだし(だから何なのか)。
ニュアンスが地域限定的なのはいかんともしがたいながら、


たまちゃん


よりは大分ましである、ような気がしないでもない。
って、全然そういうレベルの話じゃないんだなあ、これが。