えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

絶対の探求

バルザック『絶対の探求』水野亮 訳、岩波文庫、1978年(27刷改訳)。
・端から端まで大変にバルザックらしい作品。
・「絶対元素」とは今で言えば結局「素粒子」のことになるのだろうか。
 ジョゼフィーヌが言う通り、分析するのと創造するのは別事だと言わざるをえまい。
・タイトルだけから結末が予想できてしまうような作品を本気で書き上げてしまう胆力には恐れ入る。
・とはいえ、仕事にのめりこむ夫、全てを奉げ尽す妻、親への愛情と反抗に引き裂かれる子供、
 と、古典と呼ぶに相応しいような構図がしっかりとそこにはある。
・臨終の場面を書かせたらバルザックに並ぶ者はいまい。ジョゼフィーヌの最期は見事なものだ。
 今わの際になんでそんな長台詞がしゃべれるのだ、というのを抜きにして。
・しかしバルタザールが何をやってるのか、もう少し具体的に書いてくれないと困る。
 あくまで「謎」にしておくのがいいのかもしれないけれど、説得力に欠けてしまう。
・科学者がこぞって駄目出ししたというから、当時は十分信憑性があったのかもしれないけど。
・であるからして20年で700万フランも蕩尽するバルタザールの無能ぶりに腹が立つのだ。
・がしかし、改めて思えば、常識を超えまくっていてこそ「憑かれた男」というものである。
 だからこれでこそよく書かれているというものかもしれない。
・というか私が「凡人」だということなのかもしれない。
・「破滅する天才」とはバルザック的、より広く言ってロマン派的な説話型であろう。
フロベール以降はそれが多分「夢見る凡人」に移るのだ。
・それは社会がブルジョア化、ないし小市民化するのと軌を一にしている。
・そう考えれば、エラクリウスもまたバルタザール・クラースの遠い子孫の一人で
 あるのかもしれない。その間の溝はとても深いけれども。