えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

夷狄を待ちながら

J・M・クッツェー『夷狄を待ちながら』土岐恒二 訳、集英社文庫、2007年(2刷)
「読みやすさ」から言うと『恥辱』よりもずっと固い。中身は同じくらいハードで。
帝国主義下の辺境(植民地)における支配と被支配とそこに顕在化する暴力の問題
といって何かが分かるほど簡単なものでは全然なくて、全然ないということだけは
私にもよく分かる。とっても難しい作品だ。老民政官が虐待される善者で、ジョル大佐が
加害者として悪者だというだけだったらどんなに簡単だろう。でもそういうことでは
全然ない。全然ないということが作品を通してじわじわ迫ってくる。
人はいやが上にも選択を迫られる場合があるし、あまつさえ、選びうる選択はどれも正解ではない
ということもありえる、というようなこと。
政治を突き抜けたところに文学がある。でもそういうのは言うはたやすく、実際はとても難しいものだと思う。