えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

持参金

La Dot, 1884
ジル・ブラース、9月9日。『トワーヌ』所収。
「ル・ボン・ジュルナル」1885年6月21日。「ラ・ランテルヌ」1888年12月9日。
1890年、フラマリオン刊行の短編集『いなか娘のはなし』にも収録。
公証人シモン・ルブリュモンがジャンヌ・コルディエと結婚することになっても
誰も驚きはしなかった。公証人はパピヨン氏の事務所を買い取るつもりだが、
もちろんそれには金が要る。ジャンヌ嬢には30万フランの持参金がついているのだ。
結婚式を挙げ、二人はパリへと旅行に出かけるが、夫はついでに支払を済ませるからと
持参金を全額現金で持ってくるように妻に命じる。
サン・ラザール駅につくと夫は食事に出るために乗合馬車に乗ろうと言い出す。
妻を車内に乗せると、自分は一服したいからと屋上席にのぼってゆく。
次々と人が乗り降りする様をジャンヌはいつまでも眺め続けるが、夫は降りてこない。
そしていつしか終点にまで着いてしまい、夫が消えてしまったことを彼女は知るのだった・・・。


結婚は社会制度であって決定するのは親である時、持参金というのは大変重要な問題を呈する。
貧乏な青年にとって、持参金つきの娘をつかまえることは立身出世の重要な手段となる
とは『ゴリオ爺さん』でヴートランが誘惑する台詞でもあった。が、ここではそういうロマン主義的な
野心などなんにもなく、要するに結婚詐欺のお話なんである。今でもあるんだろうか、結婚詐欺って。
ほとんどオチのないこのお話、実に残酷なものだ。彼女が不安気に、次々入れ替わる乗合馬車の乗客
を眺めている場面は実に秀逸であり、もどかしくもあるところ。
ある意味ではジャンヌもまた結婚という制度の犠牲者だということができるだろう。
制度に対する批判はここでは表面にはまったく出てこないし、彼女には怒りの言葉一つ口にできないけれども。
それにしても百年前は高跳びもずいぶんお手軽にできたものなのね、としみじみ思う。