えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

女性論の古典

Lorraine Gaudefroy-Demombynes, La Femme dans l'œuvre de Maupassant, Mercure de France, 1943 (quatrième édition).
という本が届いたので忘れないうちに。
モーパッサン作品における女性」と題したこの著書は、表題の問題をまとめて扱った最初の仕事であり、
その意味で古典と呼べるものである。今さら引いてくる人もそうそういないのだけれど。
論者の主張はすこぶる明確であり、とりあえず結論を読んだだけでも分かってしまうのだけれど、
要するに「モーパッサンは女性を評価していなかった」という一点張りの本である(ので読んでると萎える)。
知的な女性、優れた女性をモーパッサンは描かなかった。何故なら現実にそういう女性を目にする機会が
なかったから。と著者は言うが、今日こういう断言はそうとうにニュアンスを加味されて考えられている
とは既にも触れたことがある通り。時代から考えてフェミニズムの文学研究に適応の先駆けといえる
かと思うけれど、もう明らかに戦闘的なんである。4版も出たのはそれ故か。
ま、この本に限らず、大事なのはいつもニュアンスにある。どんな優れた切り口も、それ一本でごり押し
すると大抵無理がでる。というか面白くなくなるのである。そう言う場合、事実は理論を超えているという
ことを素直に認めたほうがいい。モーパッサンは女性を評価していなかった。あるいは、基本的には。
でもそれが全部ではない。絶対に。そうでなければ、彼の作品が読まれ続けることなどありえない。
論理の筋が通っていることと、例外が存在することとは矛盾しない。それが人間を対象にする学問に
とってはむしろ自然なことではないだろうか。私はそう思う。