えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

ぼくの妻

Ma femme, 1882
「ジル・ブラース」12月5日、モーフリニューズ名義。コナール版『メゾン・テリエ』初収録。
既婚男性同士の食後の会話(モーパッサン短編の一タイプ)。独身時代の昔話に花を咲かせ、結婚について
話すうち、真面目な顔で「もう一度やり直せたらなあ!」と言い合う。

ジョルジュ・デュポルタンが付け加えた。「なんて簡単にそこに落ちてしまうのが信じられないよ。決して妻を娶らないと決めている。それから、春になると田舎に出かける。暑い日だ。夏がやって来ている。草には花が咲いている。友人達の中に一人の娘を見つける・・・ばーん! はいお仕舞い。結婚しているってわけだ。」
 ピエール・レトワルが叫んだ。「まさしく! それこそ僕の場合さ、ただ細部がちょっと特別だけれどね・・・」
(1巻659ページ)

そしてピエールの回想が始まる。
決して結婚しないと決めていた、35歳の時。5月に、いとこのシモン・デラベルの結婚式に招かれて、
ノルマンディーの田舎に出かける。この地方特有の結婚式で、5時に始まり、11時になってもまだ
食事が続いている。ピエールの傍には引退したデュムーラン大佐の娘がいた。
夜も更け、農民達はワイン、シードルを飲みながら踊っている。ピエールは我慢できなくなり、
娘を放って農民に混じって踊りまくる。
午前二時、泥酔したピエールは自分の部屋へ帰ろうとする。三階の三番目の部屋を、暗闇の中
手探りで探しあてると、中に入り、長椅子の上で眠ってしまう。
朝になって目覚めると、男性の呼ぶ声に、女が答える。そして誰かが部屋を開けて入って来ようとする。
ピエールはカーテン越しに取っ組み合い、女が助けを求めて叫ぶ。カーテンをのけてみると、
相手は老大佐、ピエールは間違って彼の娘の部屋で寝てしまったのだった・・・。


「艶笑」というほどもないような小話で、作品集の収録もなかったもの。とはいえ
「結婚」に関するアイロニーという点で、初期短編の特徴がよく出ている一編だ。
ノルマンディーの素朴で賑やかな結婚式の情景は「ノルマンディの悪ふざけ」や『女の一生』にも
描かれる。スキャンダルを避けるためにやむなく結婚に同意させられる、という展開の仕方が
なんというか実にモーパッサンらしい感じがする。情けなさ、というか、とほほ感とでもいうか。
結果的に彼女はとっても可愛らしかったし、僕は全然後悔していないのさ、というピエールの話の
落ちがたまりませんが、輪をかけて人を食ったようなのが結末だ。

 ピエール・レトワルは黙った。仲間達は笑った。一人が言った。「結婚は宝くじさ。決して数字を選んじゃいけない。偶然の数が一番なのさ。」
 もう一人が締めくくりに付け加えた。「そうさ、でも忘れちゃいけないのは、ピエールのために選んだのは酔っ払いの神様だったってことさ。」
(665ページ)

教訓なんかなんにもないのである。当然その分話は軽い。でもその軽さがモーパッサンにあってはいつも
「健康」さの指標になる。そして私はこの種の軽さがぜんぜん嫌いではない、ということなのである。