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えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

秘事・半所有者

河野多恵子『秘事・半所有者』新潮文庫、2003年
簡にして要を得た菅野昭正の解説の通り、「『秘事』は絵に描いたように幸福な夫婦、幸福な家庭の小説」。
派手な事件はなんにもないままささやかなエピソードが連ねられ、そのまま最後まで行き着いてしまうこと
にびっくりするのは、確かにそういう小説があんまりないからなのだろう。明確な筋を持たないという点で、
まるでかつての自然主義の理想みたいな作品だけれど、波乱のない日常に対する意味付けが自然主義とは
正反対なのである。こういう小説を書き上げるには具体的な細部が何より大事で、それを丹念に積み上げて
いく堅実さは見事なものだ。確かに「秘事」はないではないのだけれど、これまた何一つやましいところのない
秘め事なのだった。河野多恵子に対する安直な先入見を吹っ飛ばす作品。
しかしこれは一体何なんだろう、と思わずにはいられない。うーむ。
その点、短編『半所収者』の方が安直な先入見にはぴったりするわけだけれども、しかしまあこれはまた
とんでもない作品だ。実に奇怪と申し上げたい。
これは一体何なのだろう。とどっちにしても思うのである。いやはや。