「脂肪の塊」にはプロイセンの将校が登場するが、彼はアルザス訛りのフランス語を話す。
Foulez-fous tescentre, messieurs et tames ? (t. 1, p. 98.)
vがf、dがtに入れ替わるのを言語学的になんというのか分からないけれど、
それだけのことで効果は抜群で、いかにも間抜けて見える(聞こえる)のだ。
その間抜けさが偉そうな見かけと対比されると、それだけで「侵入者」に対する諷刺になる。
だから訳出の際にはこのニュアンスをなんとか出す工夫が欲しいものだ。
と思ったので、手元の翻訳を5種類ばかり眺めると、どうか。
「諸君、降り給え」(青柳瑞穂、新潮文庫、1994年(61刷)、33ページ)
「降りたらいかがです、皆さん」(水野亮、岩波文庫、1994年(63刷)、37ページ)
「みなさん、降りてください」(高山鉄男、岩波文庫、2004年、42ページ)
みんな訛ってないじゃないか!
そこいくと偉いのはこれである。
いいですね。これはいい。
で最後に、
ぎこちない感じを出したかったのは分かるけれど、ちと物足りない。
ところが、この直後の台詞にこういうのがある。
C'est pien. (p. 99.)
bienでなくpienなのである。私はこの間抜けっぽさを大層愛好する者なのだけれど、
こちらにいたると、なんてこったい。
「よろしい」(青柳、田辺、高山)「よし」(水野)「けっこう」(石田)
と皆さん面白くないことになっている。
ぴやんなんだよ、ぴやん!!
と、私は叫びたい。
ここはどうあっても、
よろぴい。(えとるた)
ではないだろうか。
よろちい。(えとるた2)
でもいいかもしれない。
違うだろうか。