えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

もう一人のモーパツサン

Sandrine de Montmort, Un autre Maupassant. Dictionnaire, suivi de "Le Canular de Le Corbeau" par Jacques Bienvenu et "Souvenirs de Mamdame X", Scali, 2007.
サンドリーヌ・ド・モンモールという人は小説家だそうだ。
この「辞典 もう一人のモーパッサン」という本は、
あまり知られていないモーパッサンのテクストや証言
(および著者による解説)を集めてきて項目順に並べ
あげたもの。それによって「知られざるモーパッサン
の姿を明らかにしようというものだ。
取り上げられているのは時評文が多く、
モーパッサン研究者が幾ら声をあげても、彼の遺した
250からの時評文は一般の読者に読まれてはいない
ので、その意味でたしかに面白くはあるけれど、
専門家にとっては、それほど新鮮味があるわけでもない
というのが正直なところではある。
興味深いのはむしろ巻末に付されている(といっても
結構なページがある)ジャック・ビヤンヴニュに
よる論考かもしれない。
この研究者は既に別の論文でこのマダムXなる手に
よる匿名のモーパッサンについての証言が
ルーマニア作家アドリヤン・ル・コルボーの
偽作であることを証明したのだけれど、その
増補改訂決定版ともいうべきものである。
これでもかとル・コルボーなる人物の正体を
調べ上げた労作であり、件の証言が偽物で
あることは、もはや疑問の余地なしと
言ってよいと思う。
そういう訳で私も自分のビブリオから遂に完全
削除を決定した次第だ。
ただまあ、困ったことには、
プレイヤッドがいつまで経ってもそれを認めずに
いまだにマダムXの証言から大々的に引用している
ことに研究者はたいそうご立腹な模様なのである。
ことが穏便に解決することを祈るよりないが、
しかし百年間にわたって研究者をだまし続けてきた
ル・コルボーなる男、実になんというか
困った人であった。


そういうわけでしばらくお休みに入ります。
皆様、よい読書、よい日々をお過ごしください。