えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

冬の夜ひとりの旅人が

イタロ・カルヴィーノ、『冬の夜ひとりの旅人が』脇功 訳、ちくま文庫、1995年
ご縁あって文庫本で再読。
この小説の書き出しは抜群にうまくてぐいぐい読まされてしまいながら、
小説を読むとはどういうことなのか、書くとはどういうことなのかを巡る、
「読者」を主人公とした、たいへん高度な作品。
「メッセージ」を「作者」が「作品」に「書き」、
「読者」は「読書」行為を通じて、その「メッセージ」を受け取る
読書とはそういうもんだ、と19世紀まで人は素朴に思ってきたけれど、
20世紀後半になって、エクリチュールと受容に関する全てのファクターは
一度疑問に付された。
文学研究者がある意味愚直かつ回りくどく分析してきたことのすべては、
この大変瀟洒な小説の中に語られているのかもしれない、と思う。
でもカルヴィーノにとって、おそらくは全ての作者にとっての
理想の読者とは、「ただ書かれていることだけを読む」読者なのかもしれない。