えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

夜会

Une soirée, 1883
前ふっておきながら、いつものようにロマンチックではないお話。
「ゴーロワ」、9月21日。
1900年『行商人』に初収録。
ノルマンディーはヴェルノン Vernon の公証人サヴァル Saval 氏は、
地方ではいっぱしの芸術家で通っており、音楽を熱愛している。
まだ若いが頭は薄く、念入りに髭を剃り、太り気味で、鼻眼鏡を愛用している。
サロンでは、パリで流行の新曲を披露しては皆に褒められてお得意だった。
さて昨年のこと、彼はオペラ『アンリ八世』を聴くためにパリへ出た。
夕方に着くと、ひとつ有名な芸術家と知り合いになってみたいと思い、
モンマルトルのカフェ「死んだ鼠」Rat-Mort へ出かける。
そこへ運良くやって来たのは画家のロマンタン Romantin。
仲間達にこれから新居披露のパーティーをやるのだと話している。
我慢できなくなったサヴァル氏は、話しかけ、お世辞を言い、
気をよくしたロマンタンは、サヴァル氏をパーティーに誘う。
やって来たアトリエはだだっ広いが埃まみれ。
ロマンタンに言われるままにサヴァル氏は掃除をさせられ、
樽と酒瓶で即席のシャンデリエを作らされる。
そこへ画家の愛人が押しかけてきて、痴話喧嘩の後、画家は彼女を
送りに出て、サヴァル氏に留守を頼む。
一時間待たされた後、やかましくやって来たのは友人達の一団で・・・。


若者達の乱痴気騒ぎは「泥棒」"Le Voleur" の調子でもあるけれど、
これは「パリの経験」"Une aventure parisienne" の男性版といえる
作品でもある。あるいはリュシアン・デュ・バンプレのなれの果て
とも言えなくはないか。高邁な野心は既に存在しないにせよ、
とりわけ芸術の領域において、パリが特権的な場であることは
世紀末にいたっても変わることはない。
芸術家気どりの地方のブルジョアカリカチュアにされているわけだけれど、
一方から見れば、彼等が憧れるパリの芸術家も、実際目にすれば
ただ乱痴気騒ぎをしている若者に過ぎない、ということかもしれず、
どの辺に諷刺を見るかは読む人次第かもしれない。
滑稽話だけれども、やはりここにも理想と現実の落差から生まれる幻滅は
あるわけで、あえてサヴァル氏よりに見るなら、後味はいささか苦い。
とはいえ、田舎に帰ったサヴァル氏。

 それからというもの彼の家、ヴェルノンの美しいサロンで、音楽が話題になると、彼は権威をもって宣言するのである。絵画はずっと劣った芸術であると。
(1巻、996ページ)

という結末はしみじみおかしい。うまいものだと思う。


ドラマの方は30分。簡潔にまとめて大変面白く観れるが、
女装させられたサヴァル氏がパリジャン達にこけにされる様は
いささか哀れを催させるようでもあるか。しかし結末では
サヴァル氏、パリではゾラとドーデに会って文学談義にふけり
そこにエレディア、コペーにシュリー・プリュドム、それから
アナトール(・フランス)もやって来たのさ、と大ボラ吹く
様は実に滑稽で味があってよい。
監督は Philippe Monnier。