えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

ベラミ

Bel Ami, 2004
そんな中、2004年9月フランス2で放映された、このテレフィルムが
DVDになったのは嬉しいところ。
監督は Philippe Triboit。
ぱっと見たところ、ポイントは2点。
1点はとにかくスピーディーなこと。105分の中で『ベラミ』一冊分、
すなわち貧乏青年が新聞社の大物にして代議士候補に成り上がり、
加えて大金を稼ぎだし、その間に、というかそれを成し遂げるために
5人の女性を征服してしまうのだから、そりゃもう速い速い。
原作の筋を守りつつ、細部をうまく処理してまとめあげた手際は見事なもので
とてもよく出来ている。
もう1点は作品の解釈に関わる問題。つまるところ、
世間の実態を知って幻滅を覚えた男が、なりふり構わずに成り上がっていく
ことで一種の「復讐」を遂げる物語、という風に解釈されている。
そのことは、主人公デュロワの本命はクロチルドなのだけれど、
身分の違いが彼女との結婚を不可能とする、というある種の「読み換え」
にも認められる。うむ、なんだかギャッツビー風ともいえるし、
ゴリオ爺さん、』のラスティニャックの図式のようでもある。
その意味付けが観る者の主人公への感情移入をしやすくすることに繋がるので、
全体として大変見やすいドラマに仕上がっている、ように思われる。
しかしまあ実際のところベラミのやることは原作と変わらないのであるから、
主人公に対する批判的距離を、観る者が失ってしまうことになるのは、
よくよく考えると問題があるような気がしないでもない。
1点だけ原作に加えられているのは、アナーキストのバルダンという人物で、
逮捕されて刑務所にいて死刑になるこの男と、デュロワとが「同類」の人間
であることが描かれている。いわばベラミの「影」であるこの人物が、
裏側から主人公の真の姿を照らしてみせるわけだ。なかなか興味深い設定。
主人公デュロワ役は Sagamore Stevenin で、これがなかなかワルそうな男
をいい味出して演じているのも見どころか。
同年に『女の一生』(前半のみ)もテレビ化されたのだけれど、
これも販売してはくれないものだろうかしらね。