えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

フランク・ハリス!

その内調べましょうね、とか思っていると
またまたまた(何度目だ)Kさんに速攻で教えて頂いてしまう。
Albert-Marie Schmidt, Maupassant, Seuil, coll. "Ecrivains de toujours", 1979
の108頁は "Chair" と題する、モーパッサンの社交界の女性達との
恋愛関係について語った章ですが、そこをよく読みましょう。

Maupassant, pour attirer à lui les proies qui mignotent leurs appas dans les réserves de la haute société, accrédite de son mieux sa légende d'heureux émule du Dieu des Jardins. Il se répand en confidences réticentes. Il hasarde des mimiques presque obscènes, soudain pudiquement intterompues. Mais bientôt il se repent amèrement de sa témérité: Si cette réputation s'étend, malheur à vous ! Toutes les femmes sont prêtes à s'offrir (282) ! Déclarant volontiers que la tentation existe pour qu'on y cède (283), il s'exténue à toujours essayer de demeurer égal à lui-même. (p. 108.)

「上流社会の慎みの陰で自分の魅力を愛しんでいる女達を、獲物として自分に惹きつけるために、モーパッサンは出来る限り、自分は庭の神(プリアポス)の幸運なライバルであるという噂を流布させた。彼の評判は含みの多い打ち明け話を通して広まった。ほとんど卑猥といえる身振りさえして見せるが、急に羞恥心から中断したりする。だがやがて、彼は苦々しい思いで自分の軽率さを後悔することになった。「もしもそんな噂が広まったりしたら、それは不幸なことだ! 女はみんな、身を任せる準備が出来ているものなのだからね!」好んで「誘惑とはそれに屈するためにこそ存在する」と主張し、いつも変わらずにあろうとして、疲労困憊することになったのである。」
なんと、ここに件の名句?が登場しているのであった。
穴があったら入らないといけないことで、実にお恥ずかしいことながら
忘れてました、というか気づいていませんでした、はい。感謝三拝。
それにしてもよくお見つけになりましたことです。
さて、注の283番にあがっている書物とは何か。
Frank Harris, Ma vie et mes amours, traduit de l'anglais par Madeleine Vernon et H. D. Davray, Gallimard, s. d., p. 324.
うーむ、フランク・ハリス、あんたかいな。
フランク・ハリス(1856-1931)はアメリカの編集者・ジャーナリストであって、
その回想録 My life and loves が有名なそうであり、
なるほどそこにはモーパッサンについてのエピソードも記されている
ということは知ってはいました。しかしその内容は上記のように
いかにモーパッサンは絶倫であったか、ということが嘘か真かよう分からんけど
詳しく書かれているらしい。ということで未見のまま済ましていたのでありました。
だって、ねえ。
とか言うてもしょうがないので速攻で仏訳を購入。1960年再販もの。
というわけで、とりあえず落着。件の葉書の製作者もなかなか乙なことをする。
がしかし、恐るべきkさんのご指摘はそこで終わらない。

The only way to get rid of a temptation is to yield to it.
Oscar Wilde, The Picture of Drian Gray

(ネット参照のみで現物未確認ですが。)
「誘惑を取り除く唯一の方法は、それに屈することである。」
で、これを仏訳すると
"La seule façon de se libérer d'une tentation, c'est d'y céder."
というようになるのでしょうか。とにかく、これは勿論
有名な文句として存在するのでありました。不勉強はまこと恥ずかしい。
それはともかく、なるほどこれはモーパッサンの文句?とよく似ている。
さて、問題は次の書物
Frank Harris, Oscar Wilde, his life and confessions, Brentano, 2 vols., 1916.
なんと、フランク・ハリスはワイルドの伝記をものしているのであった。
そういうわけで、Kさんの次のお言葉。
「ハリスがどこかでワイルドとモーパッサンの言葉を混同して
回想のなかに引用した、というのは大いに考えられるでしょう。」
うーむ。うーむ。うーむ。


というとこまできて、ベナムー先生の Maupassantiana のメルマガで
2007年に何回にもわたって、ハリスの回想録(1960年版)
が引用されていたことを思い出す。
http://www.maupassantiana.fr/Revue/archives_revue.html
がしかし、ここには上記の二つの引用が見当たらない。あうー。
30年代に出た4巻ものと、もしかして別物なのかしら。
ああなんだかもう分かりませんわ。
ということで本日は御礼のみにて失礼いたします。


追記:
googleのブック検索でひっかかったので、
若干気がひけるけど引用させて頂きます。
volume 2, Chapter XX, "Memories of Guy de Maupassant" より。

"Temptation is there to be yield to," he declared. "I deny myself nothing that suits or pleases me in life; why should I ?"
(Frank Harris, My life and loves, Grove Press, 1991, p. 447.)