えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

偽作の出所(6)メズロワ(3)

なにはともあれ、結果を見れば一目瞭然。

René Maizeroy, En folie, Ollendorff, 1894


1. En folie (17. Mad [5, 3])
2. Naufrage (16. Wife and Mistress [4, 4])
3. L'Excommuniée
4. Cambriolage sentimental
5. Les Inquiets
6. En route
7. Une suite
8. Le viatique (20. The Viaticum [5, 3])
9. Vol
10. La confession (44. The Confession [6, 3])
11. Cœur troublé
12. L'accent (25. The Accent [5, 3])
13. Les yeux dans les yeux
(Pantomimes)
I. Le meilleur baiser
II. Le mari en or

というわけで短編13編中5編が、ずばりモーパッサン偽作の正体であった。
予想が当たってとても嬉しい。
タイトルは訳せば『狂気に堕ちて』とでもなるけど、時代が変わったのでむずかしいところ。
内容を一言で言えば、妻が処女じゃなかったかもしれないという疑惑に苦しむ男の日記。
悶々と疑惑と嫉妬に苦しむ内に、いつしか理性は崩壊し、というお話。
「狂気」がこの時代の文学的トピックであったことがよく分かる。話の中には
催眠術を使って患者を犯した悪い医者、なんてエピソードなんかも出てくるが、
これもこの時代に流行った、一種の都市伝説。
モーパッサンにもまったく同様の主題、手法を使った短編が存在するのであるが、
メズロワの方は物語の進展にめりはりがなく、いかにも冗長に見えるのは、
これやはり贔屓目のなせるわざなのか。正宗白鳥の言葉が思い出されるけども、
これをして「モーパッサンという天才」の作品と信じて疑わねば、
私の評価は変わってしまうのだろうか。いやさ、むずかしい。
一方、「処女崇拝」は家父長制近代社会の必然的徴候みたいなものと思うので、
19世紀フランスにそれがあっても驚きはしないけど、それがメズロワの手に
よって描かれるとは、いささか意外。長さと表題作であることから、作者はそれなりに
「本気」だったと思うのだけれど、今となってはついていきにくい所以かな。
それはともかく。


かくしてザッヘル=マゾッホ18編に、メズロワ5編を数に入れるとどうなるか。
ジャン・リシュパン16編
ルネ・メズロワ26編
ザッヘル=マゾッホ18編
合計すると、なんと60編!の偽作の正体が同定されたことになる。
これはすごいが、しかし逆に言うと6編余ってしまった。
En folie で一気にカタがつくかという期待はあえなく潰えたのね。
しかるに残りの作品とは、
4. The Mountebanks [4, 1]
7. The Clown [4, 2]
8. Babette [4, 1]
9. Sympathy [4, 5]
46. The Lancer's Wife [6, 14]
49. Under the Yoke [7, 4]
である。恐らくこれらに合わせて、
42. Margot's Tapers [6, 3]
が一緒になって、メズロワの別の本に入っているに違いあるまい
というのが、次に立てる私の仮説である。しかし、それってどの本なのだ。
で、またじーっと文献リストを眺めてみるのだけれども、
Coups de cœur の1889年から、En folie の1894年の間にも、
何冊ものタイトルが並んでいて、いやはやこれは難しい。要検討。
とまれ、一挙に9割の偽作の正体が突き止められたのは目出度い。ぶらぼー。


ところで、
モーパッサン 文献目録 日本語版
に久方ぶりに手を入れてみる。
少しでも見やすくなっていればいいのだけれど。ぜひ見てください。