えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

ゴプセック

バルザック、『ゴプセック 毬打つ猫の店』、芳川泰久 訳、岩波文庫、2009年
「ゴプセック」はいかにもいかにもバルザックであるが、「手形」の話がもひとつ
ややこしくて、その点で、「毬打つ猫の店」のほうがとっつきやすくて明快で面白い
のではないか、とは思うが、しかし巷の一高利貸しゴプセックが
さながらパリを牛耳る怪物みたいな相貌を伴うバルザックの筆力は
やっぱりたまりません。最後に残された彼の部屋の描写も、実にもうバルザック
思うに「バルザックだねえ」という一言で説明要らない気にさせるところが
大物の大物たるゆえんですな。「モーパッサンだねえ」という一言であんまり
共通理解は得られそうにない。
脈絡ないけど、若さつながりでこの引用。

「若いとは、なんて愚かなことか。代訴人どの、覚えておいてほしいものだが、なにしろ一杯食わされないために知っておく必要があるのは、三十前の人間なら実直さと才能がまだ一種の担保となる。ところが、この歳を越えると、人間はもはや当てにできないってことさ」(55頁)

なるほど、Don't trust anyone over thirty. とは三十越えなきゃ言える台詞ではない。