えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

すべて開始

はじめの一週間が終わり、これからすべてが始まる。


ところでモーパッサンにとってのノルマンディーの海は、あるいは「母」のような
ものでもあったろうか、というような考えはまあ格別目新しいものではないだろうが、
クロノロジーをあらためて見ていると、後年のモーパッサンはもう時間があれば
南仏に出かけているようなものでありつつ、それでも、
毎夏のようにエトルタに帰ってきているのでもある。
もっともこちらはもっぱら狩猟のためだったようでもあるが。
モーパッサンと「狩猟」というのもずいぶん変な関係であり、「愛」なんていう作品で
殺される側の生物に共感を寄せたり、人間の残虐さを語るときに引き合いに出したりしつつ、
しかし彼自身は、鉄砲打ちがたいへん好きだったのである。
それはともかく、海と母といえば、それはもう三好達治ですよね、ということで
一篇の詩を敬意を込めてぜんぶ引用させていただきたいのです。

郷愁


蝶のやうな私の郷愁!……。蝶はいくつか籬を越え、午後の街角に海を見る……。私は壁に海を聴く……。私は本を閉ぢる。私は壁に凭れる。隣りの部屋では二時が打つ。「海、遠い海よ! と私は紙にしたためる。――海よ、僕らの文字(もんじ)では、お前の中に母がある。そして母よ、仏蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。」
(『測量船』、『三好達治詩集』、神保光太郎 編、白凰社、1995年(7刷)、33頁)