えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

気球に乗って五週間

ジュール・ヴェルヌ、『気球に乗って五週間』、手塚伸一 訳、集英社文庫、2009年改訂新版第1版
1863年時点アクチュアルな話題満点のアフリカ横断旅行にしてヴェルヌの実質的デビュー作。
おもいっきしもって「野蛮」な現地人は「食人種」というのには困ってしまうが、
砂漠で窮地に追い込まれるところから先のサスペンスの腕前は既によくしたものである。
どんどん捨てて最後は身一つで、辿り着いた先に待つのはフランス軍の兵士、
というあたりもまあ、それはそれとしておいておいて、あえてここだけ拾っておこう。
サミュエル・ファーガソンがアフリカの豊かな資源がいつかこの地に繁栄をもたらすだろうと
予言した後の、ディック・ケネディの台詞。

「でも」とケネディが言った。「産業界が自分たちの利益のためにあらゆるものを犠牲にする時代なんて、さぞうんざりすることだろうな。いろんな機械を発明しすぎて、人間が機械に食われちまうぞ。わしはよく考えるんだが、この世の終わりというのは、三〇億気圧なんていうばかでかい圧力のボイラーが、過熱してこの地球を吹き飛ばす日じゃないかな」
(136-137頁)

本書の中でただ一か所、何気なく差し挟まれたこの台詞に、既に後年のヴェルヌが垣間見える
のかもしれない、という風に思いました。