えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

ブラスティッド

京都芸術劇場春秋座にて、
サラ・ケイン作『ブラスティッド』、ダニエル・ジャンヌトー演出を観る。
静岡舞台芸術センター制作。14時開演。
何かを求めていながら、その何かは定かでなく、それを手にすることもできない
無力感のようなものがあって、それが暴力を産み出すことになるのだけれど、
暴力が何かを産み出すわけではなく、人は傷ついてさ迷い、死んでいく。
そういうありようがむき出しのままに投げ出されているような脚本で、
観ていてじつに痛ましい。
解決も慰めもさしてありはしないけれど、そういう痛みを共有することが、
この芝居を観ることのもたらしてくれる意味のようなもの、かと思う。
脚本にはいささか生硬なところがあって、作者の持つものがここに十全に展開されて
いるようには思えないところもあるけど、それ故にいっそう衝撃は強くて重たい。
そんな作品と真正面から向き合った演出家と役者の力量こそが、この上演を成功に導いた。
閉塞感のある舞台は暗く、爆撃の暗転中のスモークは客席までを覆う。
見せない、あるいは見えにくくすることが、逆説的に見ることを可能にし、
さらにより深く見ることを、見る者に要求する、ということ。
生きているだけで傷だらけになるような感受性を持っている人もいるもので、
作者はそういう人だったのではないかと勝手に想像する。
それを若さ故とおとしめることなかれ。
その判断を下してしまえば、この芝居を観ることに意味はないだろう。
ロンドンの初演時に、スキャンダルだと騒ぎたてた批評家のように。
だけども、思えば、保守的な批評家ほどに、
「神話」の創造に貢献するところ大な存在もないんだな、これがまた。


帰り道、古書店でめっけもの。その後、叡山電鉄で叡山口まで行って散策。
戻って三条駅前でラーメン、とビール。
盛りだくさんな一日でごわした。