えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

トゥルゲーネフ

トゥルゲーネフ

また三月を越えてしもうた。ということで翻訳。
モーパッサン 『「ニヒリズム」の語の発明者』
見どころはなんといっても、久し振りのデッサンです。違うか。
といっても昔のトゥルゲーネフの改訂版ではあります。原型を留めてないけど。
もはやあんな風に適当な絵が描けなくなってしもた自分が若干悲しい。
元のほうが可愛かったとか言わないでね。


一個だけ作品の邦題が分からずにえらいこと苦労する。
最終的に、親切な古本屋さんによる、売り出しの古書についての注記に助けられた。
それから、これを機に「ツルゲーネフ」から「トゥルゲーネフ」に切り替えるものの、
しかし「イヴァン」を「イワン」に変えてしまう勇気が出ないのであった。
フランス語読みでは「ヴァ」にしかならないので。


1880年5月フロベール死去。同年11月、トゥルゲーネフに捧げられたこの一文は、
ある意味でモーパッサンがトゥルゲーネフを、新しい、ないしもう一人の「師」であると
宣言する文章だった、と言えないことはない。
この時期、モーパッサンは最初の短篇集となる『メゾン・テリエ』の準備中であり、
表題作の中に出てくる歌を何にしたらいいか、とトゥルゲーネフに助言を求めてもいるが、
であればこそ、論の最後において、モーパッサンがロシアの先輩作家を「短編小説家」として
格別に評価している点に注目しないわけにはいくまい。

 Psychologue, physiologiste et artiste de premier ordre, il sait composer en quelques pages une oeuvre absolue, grouper merveilleusement les circonstances et tracer des figures vivantes, palpables, saisissantes, en quelques traits si légers, si habiles qu'on ne comprend point comment tant de relief est obtenu avec des moyens en apparence si simples.
(Maupassant, "L'Inventeur du mot "nihilisme" ", in Chroniques, t. I, U.G.E., 1980, p. 104.)
一級の心理学者、生理学者にして芸術家である彼は、数頁の内に絶対的な作品を構成することが出来るし、驚くほど巧みに状況をまとめ上げ、生き生きとして触知できるような、感動的な人物を描くことが出来るが、それも幾つかのあっさりした、大変に巧妙な筆致で成し遂げるので、一見したところは大変に単純な手段によって、どうしてこれほどの精彩が得られるのか、理解できないほどなのである。

言葉を尽くすのではなく、簡潔でありながら、なおかつ人物を生き生きと描き出すこと。
それがモーパッサンの理想であり、また彼が実際にやって見せたことでもある。
だから、トゥルゲーネフはとっても大事なのである。だから?
『初恋』だけでなく、トゥルゲーネフの新訳出してくれないものだろうか、と
私は切に思っているのであります。