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えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

善き人のためのソナタ

映画

Das Leben der Anderen, 2006
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク脚本兼監督。
1984年、東ベルリンにおいて、劇作家と彼の恋人をスパイする
秘密警察シュタージの男は、盗聴を続ける内に次第に相手に共感を覚え、
東の真実を西で告発しようとする劇作家の活動を察知しながら、
これを上司に報告せずに握りつぶしてしまうが・・・。
ちくしょう(何故ちくしょうか分からんけど)こいつはいい映画だなあ。
独国家保安局の実態について綿密に調査した上で書きあげられた脚本の
出来が大変いいので、大物俳優が格安のギャラで出演したという、いい話までついて、
これが卒業制作とは恐れ入るばかり。
なんといっても主演ウルリッヒ・ミューエの、始終無表情でありながら
寂寞感溢れ出ている演技が素晴らしいこと。
実際にこういう人物がいたかどうかは二の次の話であろうと思う。
権力とか組織とかと、その中に生きる人間とを分けて捉える視線によってこそ、
一党独裁の支配体制がもたらした歪みを、切実なものとして描くことができた。
『トンネル』よりこちらの方を私が好む理由は、その点に尽きるといっていい。


全然何の関係もない引用。チェーホフについて。

恐らく、ロシヤの大作家で、彼ほど強い自制力を持っていた人はない、彼とモオパッサンとを比べるなどとは、とんでもない事だ。モオパッサンは絶望した懐疑派であったが、チェホフは、胸の火を遂に隠しおおせた聖者だったのです。
小林秀雄、「ドストエフスキイ七十五周年祭に於ける講演」、『考えるヒント3』所収、文春文庫、1976年(2009年21刷)、91頁)