えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

オーウェルと、名句の出典

オーウェル;George Orwell

そういうわけで今日こそジョージ・オーウェル
それにしても、猫と似顔絵しか描けないというのは、いかがなものなのか。
まあええか。


モーパッサンの成功の裏には、運命の皮肉といったものがあるのではないか、
てなことを言っている時に、なんかいい名句でもないじゃろうか、
と思って、インターネットで探す時点ではなはだしい堕落なのであるが、
(真似をしてはいけません)
destin, citationsなんかで検索してると、
とにもかくにも、ロマン・ロランの格好いい言葉が見つかるのである。
しかしながら、あちこちの名句集のサイトに挙がってはいるのだけれど、
ことごとく出典を記していないのだね。
同じ出所のものがコピペで出回ってんであろうか。
スピーチでもするならそれでよかろうが
(しかしおもむろに「運命」とか言い出すスピーチってどうなのか)
こちとらそれでは困るんでい。


それでも、とりあえず『内面の旅路』が出所らしいとは分かったので、
そこまで分かれば、まあ後は根性次第ではある。
ということで、本日ようやく突き止めたので、
ここに正しい出典のもとに記しておきたい。
ロマン・ロランが母親について語っている個所から。

Mais le succès, la gloire, ne l'ont jamais touchée; plus d'une fois, elle m'a dit :
―"Cela ne m'intéresse pas. J'en suis contente seulement si tu en es content. Mais je suis plus contente si tu es un brave homme, et je serais plus heureuse si je te savais heureux et obscur, avec une bonne femme et de beaux enfants."
 Et je pense comme elle. - Mais nous ne choisissons pas. Notre destin choisit. Et la sagesse est de nous montrer dignes de son choix, quel qu'il soit.
(Romain Roland, Le Voyage intérieur, Albin Michel, 1942, p. 141.)

141頁だよ141頁、あんたらみんな書いときんしゃい。と言って回りたい。
翻訳も挙げておこう。

しかし、成功や光栄やに、母の心は動かされなかった。一度ならず母は私に言った――
 「そんなものは私を面白がらせない。ただあんたがその成功と光栄とを喜んでいるのなら、ただそのためだけに、私もそれを喜ぶ。しかし私には、あんたが一人の良い人間(un brave homme)であってくれることのほうがもっと嬉しいし、また、もしもあんたが一人の良い妻とりっぱな子供たちを持って暮し、幸福で、そして別に有名ではないというふうだったとしたら、私にはそのほうがいっそううれしい。」
 私も同感である。――しかし、運命を私たちのほうで選んだのではなく、運命の方で私たちを選んだ。そして、運命がどんな仕方でわれわれを選んだにもせよ、その運命の選択にあたいする者としてのわれわれを実証して見せることが、智慧ぶかいことなのである。
(『内面の旅路』、片山敏彦 訳、『ロマン・ロラン全集17巻 自伝と回想』、みすず書房、1960年、370頁)

うむ、見事な直訳。
てのはまあよく、これが文脈であった。
「我々が選ぶのではない。運命が選ぶのである。そして叡智とは、それがどんなものであったとしても、その運命の選択に自らが値するものであると示してみせることにあるのだ。」
「運命の方で私たちを選んだ」というのは、
第一にこれだと過去形のようだけど、ここはむしろ一般論としてとるべきではないか。
第二に、「私たち」が選択するという行為の対象(目的語)なのかどうか。
あの人じゃなくてあんたを選ぶ、ではなくて、あんたには成功と栄誉、あの人には家庭の幸福を
分け振りましょう、というのを運命さんが選択するのではなかろうか。
というようなことはまあともかくとして、
かくして、めでたく次の文となるのであった。


いかにもモーパッサンは、運命が下した選択に対して、
己がこれに値するものであることを、自ら証したのではなかったか。
(というのは、よっしゃほなもう詩はやめて散文一本で行くでえ
と、えらく潔く決めました、ということなんですけども、つまりは。)


ちゃんちゃん。
これにて一件落着なり、というお話でした。