えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

ルイーズ・ミシェルをからかう

1880年春にモーパッサンは日刊紙 Le Gaulois と契約し、
基本的に週一回(とはいえ実際は大変まちまち)記事を掲載するようになる。
その『ゴーロワ』が、いまやGallicaで全て閲覧することができるのであるが、
しかもいつの間にか、OCRで読みとったテクストも張っついているので(もちろん読み間違いは山ほどあるけど)、
理屈上はゴーロワの全紙面に対して検索がかけられるのである。
これに気付くまでえらく苦労したのであるが、知ってみればこれがすごい。
たとえば。
1880年12月30日付記事 "La Lysitrata moderne" 「現代のリューシストラテー」は、
いわゆる青鞜派をからかっていて、
モーパッサンのミゾジニーを喧伝するその筋では有名なものであるのだけれど、
文中では明らかに、特定の人物を批評の対象にしていて、
件の人物の作なる6行の詩を引用している。
ところが、モーパッサンのクロニックの批評校訂版を出している
ドゥレーズモンもミットランも、その点に注釈を付けていない。
そういうのは困ります。
私はそれがすごく知りたい。
どうしたらよいのか。
紆余曲折をあれこれ経て、この時期、ルイーズ・ミシェルなる人物が女性権拡張論者として
活躍していたらしいことを知る。
Louise Michel (1830-1905) はコミューンの闘士で、長くニュー・カレドニアに流刑、
1880年に帰国し、その後長く活動を続けた。フランス初期フェミニズムを代表する人物の一人。
ふむ、それはつまり、もしかして、そういうことですか。
というわけで、件のゴーロワ検索に Louise Michel を入れ、1880年に絞り込む。
するとどうですか、
11月10日の記事で、彼女の帰国が知らされ、
その後、あちこちで集会を開いていることが分かるのであるが、
11月27日の "Echos de Paris" に、モーパッサンの引用している詩が載っているでは
ありませんか。
そもそもゴーロワの論調は、彼女の運動に対して軽蔑的なものなのであるが、
モーパッサンもまたそれに同調する形で、「時の人」をやり玉に挙げている、
というところに、この時評文の真のアクチュアリティーが存在するのだ、
ということが、これでめでたく明らかになる。
この記事からモーパッサンのそれまで、1カ月以上の間がある、というところが、
研究者をして見落とさせた(というか探す気を失わせた)のでないかと推測したりするのだが、
それが今や、PDFで大変読みやすくなった上に、
図書館の古っちいマイクロリーダーで当時の新聞を読むのはほとんど不可能な難行だったのだ)
検索までかけられるのだから、こんなに凄いことはない。
というわけで、モーパッサンが記事でほのめかしている時事ネタは一体何なのか
というのを一個一個見ていくのは、大変に楽しい作業なのであるが、
しかしまあ時間はかかる。
モーパッサンがルイーズ・ミシェルに代表される青鞜派(ブルー・ソックス)を
揶揄しているのは、これはもう弁解の余地のない話なのであるが、
社交界を相手にする、粋で陽気でエスプリの利いた時評文執筆家、
という役回りをあからさまに演じてみせた、というような事情が、
多少なりとあるのだろうなあと、まあ弁護する気もないけど、思ったりします。
はやく『ジル・ブラース』も Gallica にあがりますように。がんばれ国立図書館