えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

近代都市パリの誕生

北河大次郎、『近代都市パリの誕生 鉄道・メトロ時代の熱狂』、河出ブックス、2010年
主に前半が鉄道、後半がメトロのお話。
鉄道を施設するということは、単に引けばいいやないかというものではなく、
都市あるいは国土の機能と構造とは如何にあるべきか、そのヴィジョンを問うものである、
ということが大変によく分かる。
本書には実現しなかったプランがたくさん紹介されているのだけれど、
それら数多の計画を通してああじゃこうじゃさんざんに議論し尽くした結果として、
今のフランスの鉄道およびパリのメトロは存在するに至ったのだ。
サン=シモン主義の思想をふまえた壮大な「地中海システム」(52頁)とか、
三段重ねの驚きの高架メトロ案(188頁)とか、
それぞれのエンジニアの夢と野心の詰まったプランに、
もしかしたらそうでありえたかもしれないもう一つの世界を垣間見るようで楽しいです。
ちなみに絵は昔ボツった、ギマールのメトロ入口。


んで、ところで本書に、モーパッサンの引用が出てくるので(125頁)、
そこんとこの原文を引用。

Tous les hommes maintenant parlaient en même temps, avec des gestes et des éclats de voix ; on discutait le grand projet du chemin de fer métropolitain. Le sujet ne fut épuisé qu'à la fin du dessert, chacun ayant une quantité de choses à dire sur la lenteur des communications dans Paris, les inconvénients des tramways, les ennuis des omnibus et la grossièrté des cochers de fiacre.
G. de Maupassant, Bel-Ami (1885), Livre de poche, 1983, p. 41.

「今やすべての男達が一斉に、身ぶりを交え声を張り上げて話していた。メトロポリタン鉄道の大計画について議論されていたのである。その話題はデザートが終わりになるまで尽きなかったが、それというのも、パリの交通の遅さ、トラムウェイの不便さ、乗合馬車の鬱陶しさや御者の粗暴ぶりについて、各人が言うべきことを山と持っていたからである」
モーパッサン、『ベラミ』第一部第二章
なるほど、こんなところにメトロが出てくるとは気に留めていなかったけれど、
70年代から80年代にかけて、メトロの計画案についての議論は、社交界の格好の話題であったに違いない。
おそらくモーパッサンの書き物に「メトロポリタン」の語が出てくるのはここのみで、
もちろん彼は実現したメトロを目にすることはなかった。
ま、あれほど彼の嫌いそうな乗り物もそうはあるまいので(狭いし暗いし)、
それは別によかったかもしれない。
でもそれはそれ、モーパッサンがメトロの悪口言うのを聞いてみたかった、という気持ちはなくもない。
ギマールのアール・ヌーヴォーも、まあお気に召さなかったでしょうけども。