えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

おおファンタスティック

竜之介さん、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いもうしあげます。
またしてもあれこれ申し上げたくなるコメントありがとうございました。
メリメとネルヴァルの全集は私も欲しいと思います。
前者6冊が出たのはなんと戦前。ネットだと美本で1万5千円前後でしょうか。
ネルヴァルは70年代の3巻本は安値で入手可。
新しく出た5巻本はあんまり出てないし、まだ高い模様ですねえ。
ああ、本棚があれば。


ご承知かと思いますが、フランス幻想文学に関しては
怪奇小説傑作集』、第4巻、アポリネール他、青柳瑞穂・澁澤龍彦訳、創元推理文庫、1969年
『フランス幻想文学傑作選』1-3巻、窪田般彌・滝田文彦編、白水社、1982年
これのダイジェストだったかどうだったか今現物手元になくて確認できませんが、
『フランス幻想小説傑作集』、窪田般彌・滝田文彦編、白水Uブックス、1985年
これがたまりませんね。
恥ずかしながら(モーパッサンが入ってないので)知らなかった、さらに通向けがこちら
J・ロラン他、『十九世紀フランス幻想短篇集』、川口顕弘編訳、国書刊行会、世界幻想文学大系33、1983年
個別に忘れずにおさえたいのは岩波文庫
『ノディエ幻想短篇集』、篠田知和基訳と
ゴーチエ、『死霊の恋・ポンペイ夜話 他三篇』、田辺貞之助
ついでにこの際挙げておきますと、
モーパッサン怪奇傑作集』、榊原晃三訳、福武文庫、1989年
サドも含めてこの辺りの一番の目利きはなんといっても澁澤龍彦でした。彼の
『悪魔のいる文学史―神秘家と狂詩人』、中公文庫は
かつて小ロマン派と呼ばれた一連のいかれた作家の優れた紹介・評論です。これ傑作。
(でも我が家ではこの辺の本は目下全部倉庫入りしているので寂しいわ。)
なんか主旨が分かんなくなってますが、もし未読のものがありましたら
どれも絶賛お勧めです。
もう一冊挙げておくなら、
幻想文学』13号、「フランス幻想文学必携」、幻想文学出版局、1985年
でしょうか。


主に民間伝承の形で語られていた幽霊、悪魔、妖精などを文学作品に好んで取り込んだのが
1830年代のロマン主義作家であり、ここにはホフマンの影響が大きかったのですが、
19世紀は科学と合理主義と世俗化の時代なので、
キリスト教にかかわる「迷信」の類は古いもの、時代遅れのものとみなされていく。
そういう流れの中で「不可解」なものは、むしろ人間の精神の内側にある
と見なされるようになり、19世紀後半にはとりわけ「狂気」が文学の題材に選ばれる。
そこには今度はエドガー・ポー(アル中の狂人というのが当時の作家像)の影響
ボードレールの翻訳の存在は大きい)が濃く窺われる。
ここにモーパッサンも当然位置づけられます。
というわけで19世紀フランス「幻想文学」は世紀の前半と後半で大分趣が違うように思われます。
メリメはなんとなくこの中間に位置づけられる人で、
彼はありえない話を語る際にも「本当らしさ」が必要だと考えた。
傑作は「イールのヴィーナス」ということで評価が固まっております。
メリメは理知の人だった。そこが評価の分かれ目ですが、短編書かしたら上手いですねえ。


ややこしいのはネルヴァルですね。彼は遺作『オーレリア』一作のみで
幻想文学の系列にも必ず登場しますが、あれはロマン主義的な異教趣味と
文字通り生きた体験としての「狂気」が分かちがたく結びあったところに生まれた
空前絶後で相当難解で目が眩むような作品です。傑作という言葉では全然足りない。
しかしながら、ネルヴァルという作家の経歴の中ではあれは本当に最後の「はじけた」作品なので、
この作品だけからネルヴァルという作家は見えてこないのではないかと
私などには思えてなりません。なんだか興ざめでご免なさいですけども、
ネルヴァルを読むなら「幻想文学」は一度括弧にくくった方がいいでしょう。
(『栄光の手』みたいな作品もありますけどもね。)
紛れもない珠玉の一品「シルヴィ」を含む『火の娘たち』の次に、
じゃあネルヴァルは何を読んだらいいんだろう。
『幻視者達』とか『塩密輸人』(だったっけ)とか、なかなかとっつきにくい印象がぬぐえないんだなあ。
なので、これも相当ハードながらしかしやっぱり『東方紀行』に指を折る。
(旅行記ですが相当フィクション入っている上に長い挿話もあって、
なんだか随分長いのですが、しかしネルヴァルの面白いところが全部詰まっているので、
時間かけてじっくり味わいたい本です。
ベタな言葉で言うところのユーモアとペーソスの配合が
抜群にいいのがネルヴァルです。個人的感想ですけど。)
新版の全集に完全な形の翻訳があるのでこれをお勧めしたいけれども、
その前に、以前に感想記しましたが、
野崎歓、『異邦の香り―「東方紀行」論』、講談社、2010年
をお読みになるのも一案です。面白いですよ。


今年一年、竜之介さんがますますフランス文学の深い森に分け入って魅了されますことを
密かに願っております。ははは。
どうぞよい読書を。
というあたりでひとまずご返事に代えまして。再見。