えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

対訳で楽しむ『脂肪の塊』第6回

『ふらんす』2014年9月号

『ふらんす』9月号に、
「対訳で楽しむ『脂肪の塊』」第6回(最終回)掲載されました(32-35頁)。
「脂肪の塊」不在の宴会の場面から、翌日の馬車の中の最後の場面まで、
コラムは「男性中心社会に生きる女たち」です。
お読みいただけましたら幸甚です。


「通りすがり」の方、コメントをどうもありがとうございました。
三遊亭円朝の「名人長二」の元ネタがモーパッサンの「親殺し」であるというのは
なにしろこれが日本に入ってきた最初のモーパッサンかもしれない、ということで
「日本におけるモーパッサン受容」という話の中ではよく持ち出される話題なのですが、
肝心のモーパッサンの作品が翻訳で意外にすぐに読めない、という事情があるとは
思い至りませんでした。
そこで、
いつもお世話になる『大正期翻訳文学画像集成 雑誌編 モーパッサン集』、ナダ出版センター(CDロム)を参照。

親殺し

明治28年4月  名人長二 三遊亭円朝訳 中央新聞(28日〜6月15日)

明治28年10月 *名人長二 三遊亭円朝訳 佐藤廉之助

明治29年3月 *指物師名人長治(内題・名人長二) 三遊亭円朝訳 博文館

明治43年9月  親殺し 馬場孤蝶訳 新潮

大正3年3月 *親殺(『モオパツサン傑作集』) 馬場孤蝶訳 如山堂書店

大正4年7月  親殺し 大江蕃太郎訳 新人

大正10年1月 *親殺(『モウパッサン全集』4) 佐々木孝丸訳 天佑社

大正15年☆月 *親殺(『世界短篇小説大系』仏蘭西歴代名作集) 佐々木孝丸訳 近代社

昭和2年8月 *名人長二(『円朝全集』9) 三遊亭円朝訳 春陽堂

昭和11年1月 *親殺し(『戦争小説集・惨虐小説集』) 坂崎登訳 河出書房 (モーパッサン傑作短編集Ⅴ)

昭和26年1月 *親殺し(『モーパッサン文庫』5) 河盛好蔵訳 小山書店

昭和31年2月 *親殺し(『モーパッサン全集』9) 小林龍雄訳 春陽堂書店

昭和40年9月 *親殺し(『モーパッサン全集』2) 小林龍雄訳 春陽堂書店

昭和50年10月 *指物師名人長二(『三遊亭円朝全集』6) 三遊亭円朝訳 角川書店

平成13年8月 *指物師名人長二(『明治の文学』3) 三遊亭円朝訳 筑摩書房

平成14年6月 *名人長二(『三遊亭円朝集』明治翻訳文学全集《翻訳家編》1) 三遊亭円朝訳 大空社・ナダ出版センター

なんと、「名人長二」が円朝の「翻訳」として扱われているのであった。
それはいささか無理な話のような気もするが、まあそれはともかくとして、
なるほど、確かに一般的に流布した文庫の作品集には収録されていない。
はてさて、これはいかなる理由によるものでありましょうか。


脈絡のない引用を一つ。

 デカルトのいう絶対的懐疑は、自然界における真空と同じく、人間の脳の中で存在しえない。もしあるとすれば、排気ポンプの効果と同様、そこで行われる精神の操作は、きわめて例外的な、おぞましいものになるだろう。それがどんな形であろうと、人間は何かを信じているのである。
バルザック、『暗黒事件』、柏木隆雄訳、ちくま文庫、2014年、275頁)