えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

クリスマスの夜

モーパッサンの顰に倣うように、時事的な題材を選んで翻訳をしてみました。
モーパッサン 『クリスマスの夜』
お読みいただけましたら幸いです。


ルイ・フォレスチエの指摘するごとく、ここで語られるのは聖夜の「降誕」のお話であり、それは「同時にグロテスクでもあり、感動的でもあり、嘲笑的でもある」(プレイヤッド1巻、1501頁)。
この短編が掲載されたのは12月26日付の新聞であり、実際には25日に販売されたとすると、冒頭の男たちの集まりの場面、実はそれは前日の24日の晩だった、という想定が成り立たないこともないかもしれない。もしそう読むなら、当のクリスマスの夜食(レヴェイヨン)の場で、「クリスマスの夜食は二度としない」と言っていることになるわけで、それ自体が言行不一致の馬鹿馬鹿しさを含むことになるが、はたしてどうだろうか。
このタイプの語りは、読者には「事実」が容易に見抜けることによって、主人公の言動が滑稽に見える類のものであるが、モーパッサンはこの種の語りがたいへん巧い。お楽しみいただけたらまことに嬉しいです。
ちなみに、青柳瑞穂訳の一例を挙げておこう。

 ふと、ヴァリエテ座のまん前で、ちらりとお好みの横顔を認めた。それから頭が見えた。ついで、前方に二つの肉瘤(にくりゅう)がね。一つはひどく美しい胸についている肉瘤であり、もう一つは、その下にある、じつに驚くべきやつで、つまり、でぶの鵞鳥みたいなお腹なんだ。おれは体がぞくぞくしたね。小声で言うには、『しめた、別嬪だわい!』
(「クリスマスの夜」、青柳瑞穂訳、『モーパッサン短篇集 II』、新潮文庫、1971年(1995年32刷改版)、138頁)

細部はともかく、「しめた、別嬪だわい」は、私にはとても出てこない訳語であります。Joyeux Noël !