えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

モーパッサンの2作品、発見のニュース

「ディエップの思い出」挿絵

ブログLa Porte ouverte の1月28日の記事
DEUX TEXTES RETROUVÉS DE MAUPASSANT : LE MARCHÉ AUX COCHONS, LA PLAGE DE DIEPPE | la porte ouverte
に、筆者の Monsieur N が、モーパッサンの知られてないテクスト2編を発見したと報告されている、ということをKさんに教えていただく。
その2編とは次の通り。
Guy de Valmont, « Le Marché aux cochons », Musée universel, tome X, n° 240, 1er mai 1877, p. 68-70.
Guy de Valmont, « La Plage de Dieppe », Musée universel, tome X, n° 243, 23 mai 1877, p. 117-119.
つまり挿絵入週刊誌『ミュゼ・ユニヴェルセル』、1877年の5月1日号に「豚の市場」、5月23号に「ディェップの浜辺」と題する記事が、ギ・ド・ヴァルモンの筆名で掲載されているというのである。
なるほど、Gallicaには『ミュゼ・ユニヴェルセル』が挙がっており、実際にそのテクストを確認することができる。ギ・ド・ヴァルモンは1876年から78年にかけてモーパッサンが使用していた筆名。役所勤めに支障を来たさないように筆名を使用していたものと思われる。
なお、このうち「豚の市場」のほうに関しては、「聖アントワーヌの豚と伝説」という題の記事が、ルーアンの地方の週刊誌(恐らくはTam-Tam)にやはりヴァルモン名義で掲載された、ということだけは既に分かっていた(ただし正確な情報は不明)。「豚の市場」にはごく一部にだけ加筆があり、恐らくは件のルーアンの記事が『ミュゼ』に再録されたものか、とN氏は推測を述べている。
なるほど考えてみれば、70年代の作家修行時代のモーパッサンが著したテクストが他にもあってもおかしくはなかったのだが、ここに実際にそれが見つかったというのはなんとも嬉しいニュースであり、20代のモーパッサンの一面を新たに教えてくれる貴重なテクストである。
「豚の市場」は、畜殺場に豚を連れていく時に、農夫は掌に豚の尻尾を巻きつけて引きずっていく、という話から始まり(「こうすりゃあ、奴は自分がどこに行くか分からないからね」)、一般に豚は悪口を言われる存在であるがそれは間違っていると豚を擁護する言葉が続いた後に、聖アントワーヌの伝説を語って終わっている。

« Nous allons prendre le cochon
« Du bienheureux Antoine ;
« Nous en ferons du saucisson
« Avecque de la couënne. »
幸せ者のアントワーヌに
豚をもらいに行こうじゃないか
それで作ろう 腸詰めに
あわせて皮揚げ ごちそうさ

「ディエップの浜辺」は、避暑地としてのディエップの情景を、エトルタの町と対比させながら紹介する一文であり、こちらのほうがやや短いテクストである。
聖アントワーヌはフロベールとの関係でモーパッサンにも親しいものだったし、ノルマンディー、なかんずくはエトルタの町はモーパッサンの故郷そのものである。いずれも作者にとって身近なよく知った話題であり、見習い作家が堅実な題材を選んで自分の腕試しをしている様が窺われる。同時期に書かれたフロベールバルザックについての文学評論に見られる気負いからくる固さがこちらの記事にはなく、実にのびやかにエスプリを交えて語られていることにはいささか驚かされもするほどだ。81年頃の時評文執筆家と比べてもさして遜色はないのではないか、と思わせる。なにより良いのは、ここには70年代の健康的で曇りのない青年作家モーパッサンの若々しい姿がはっきりと見て取れることだ。
ミュゼ・ユニヴェルセル』にモーパッサンが寄稿したのはこの2編だけのようで、この際だからとGallicaでGuy de Valmontの名前で検索をかけてみても、そう簡単に発見のあるわけもないのだが、それでも、とりわけ70年代後半にモーパッサンが発表したテクストが、まだ一つや二つ埋もれているのではないかと期待せずにはいられない。
この二つのテクスト、近い内に翻訳するぞと心に誓う。Kさんに心から御礼申し上げます。
Je voudrais ici remercier monsieur N pour sa découverte précieuse !
(なお挙げた画像は120頁に掲載の「ディエップの思い出」と題された、Busson du Maurierのデッサンを元にした版画の由)