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えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

BD 『氷河期』/ -M- 「オセアン」

BD シャンソン・ヴァリエテ

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 フランスの漫画ことBD(ベーデーであって、ブルーレイディスクではない)が日本に積極的に紹介されるようになって、もう6、7年は経っているだろうか。これは、有能で熱意のある紹介者が何人かいれば、状況を変えることができるという見事な実例であり、その営為にぜひとも敬意を表したいと以前から思っていた。

 そういうわけで、まったくの素人ではあるけれど、素晴らしい作品について思うところをあれこれ述べてみたい。どこまで続くか分からないけれど。

 とにかく、フランスのBDは日本の漫画とは根本的に別物なので、日本の漫画が好きな人こそ、BDを手に取れば新鮮な発見に驚くのではないだろうか。大判でフルカラーの作品が多いので値段は張るが、日本に紹介されるような作品は、二度三度と繰り返し眺め、じっくりと読み返すだけの価値のあるものばかりが厳選されているから、無理をしてみる価値はあると思う。

 さて、私が一番最初に挙げたいのは、なんといっても、

ニコラ・ド・クレシー『氷河期』、大西愛子訳、小池寿子監修、小学館集英社プロダクション、2010年

である。これは、「ルーブル美術館BDプロジェクト」の一冊なので知る人も多いに違いない。ニコラ・ド・クレシーの翻訳されたものでは、

『天空のビバンドム』、原正人訳、飛鳥新社、2010年

が圧倒的に凄いのは確かだけれど、いかにも癖が強すぎて最初は取っつきにくい(と思われる)のに対し、『氷河期』の淡い水彩の絵柄はとても見やすく、話は相当ぶっ飛んでいるけれど、それでも首尾一貫しているのでずっと読みやすいだろう。

 話は今から1,000年ほど未来、地球は氷河期で氷に覆われている。環境破壊で死滅しかかった人類はかろうじで生き残っているが、過去の文明の記憶をほとんど持っていない、という設定である。そんな中、人およびしゃべる犬からなる探検隊が、雪で埋もれていたルーヴル美術館を発見する。

 人間たちはそこに残された絵画作品が、失われた歴史を語っているものに違いないと考え、絵だけから人類の過去をあれこれ想像するのであるが、なにしろ宗教画、裸体画や風景画などの古典作品ばかりであるから、そこから紡ぎ出される歴史=物語は奇想天外の馬鹿馬鹿しいもので、それを大真面目に語っているところがすごく可笑しいのである。

 一方で人間たちとはぐれたしゃべる犬ハルクは、建物の別のところで、古代の神々を象った彫像や置物などに出会う。これらの神々は魂を得たのかなんなのか、とにかく動いてしゃべるので、お互いに悪口を言ったり突っ込みを入れたりの、そのやりとりがこれまたたいへん面白い。

 そしてそういう物語に次々に出てくるルーヴル所蔵の作品は、どれも実際に存在するものが、それと分かるように丁寧に描かれていて、ちゃんと巻末には解説も付けられているので、眺めているとルーヴルについてもしっかり詳しくなれる(かもしれない)のである。

 そして最後に、この物語の破天荒な展開の見事さよ。実に馬鹿馬鹿しい結末ではあるけれども、その無茶苦茶さがいかにも清々しい。これほどオリジナリティーの高い物語をさらりと語ってしまえるニコラ・ド・クレシーという人は、まさしく天才の呼び名に値すると言うべきだろう。

 いや本当に、褒めるとこだらけのこれは見事な傑作であると、大きく太鼓判を押したいのである。ニコラ・ド・クレシー、知らないのは勿体ない。

 

 話は変わって、本日は -M- こと Matthieu Chédid マチュー・シェディッドを聴こう。見た目むさ苦しいおっさんであるが、歌わせたら実にうまいし、クールで、(たぶん)セクシーなので、いかにもフランス人男性に受けがいいに違いない、と思ってしまうのはただの偏見だろうか。

 2012年のアルバム Îl (って何だろう、il と île をかけてるのか)から、とくに好きな "Océan"「オセアン」。

www.youtube.com

C’est en toi

C’est en moi

Oh c’est en nous

 

C’est en toi

C’est en moi

Océan

 ("Océan")

 

君の中に

僕の中に

おお僕たちの中に

 

君の中に

僕の中に

オセアン(海)

(「オセアン」)

  oh c'est en と océan は同音である、という「だけ」と言ってしまえば「だけ」の歌詞であるが、しかし見事に恰好いいですね。