えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

BD『かわいい闇』/ストロマエ「パパウテ」

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 この作品を好きだと言う自信も、そのつもりもまったく無いのだけれど、一読、その気色悪い感触が尾を引くことは確かな、どうにも無視できない作品である。

 マリー・ポムピュイ、ファビアン・ヴェルマン作、ケラスコエット画『かわいい闇』、原正人訳、河出書房新社、2014年

 春の森の中で、一人の少女が死ぬ(理由は分からない)。そして、彼女の体内に住んでいた小人たちが慌てて外の世界に出てくるところから物語が始まってゆく。

 この小人たちは皆子どもの姿をしている。彼らは、自分たちだけで自然の中を生き抜いていくために、食べ物を探したり寝場所を作ったりするのだが、子どもなので遊ぶことも欠かさない。その姿は一見無邪気に見えるのだが、この子どもたちには善悪の観念が完全に欠落しているという点が、この物語の「怖さ」を生み出す核だと言えるだろう。彼らは罪悪感を抱くことなく、嘘をつき、欺き、裏切り、時には仲間をいじめ、殺す。葬式ごっこをしてみても、別に本当に悲しんでいるわけではない。

 その一方で自然は容赦なく、春から夏、秋から冬へと季節が巡っていく中で、動物に襲われて、一人また一人と子どもたちの姿が消えてゆく。そうしてそんな彼らのそばにはいつも少女の死体があり、肉が腐って大量のハエが発生し、やがて白骨となって落ち葉に埋もれてゆくのである。

 一年後、森の中の小屋で一人暮らす人間の男のもとに、主人公の少女ひとりが残される。彼女にとっては巨人である男にほのかな思いを寄せるところで物語は幕を閉じるのだが、読者の私は、全編を通して実に居心地の悪い不安感を抱きっぱなしのまま巻を閉じた次第である。この背筋がぞわぞわするような落ち着かない感じは一体何だろうか。

 思えば、子どもというのは(大人からすると)時に奇怪な存在である。昆虫や爬虫類を捕まえて遊んでみたり、さらには手足をもいで殺しても平気だったりするのは、誰もが知るところだ。大人になってしまうと我が事であってももはや理解できなくなるのだが、いや本当にあれは何なのだろう。とにかく、この作品に描かれているのは、子どもの持つそういう面である。純心さや無邪気さとは、言い換えれば善悪や美醜の観念がまだ不在であるということだ。子どもは邪気もなくたわむれているに過ぎないのだが、それが大人の目には奇怪にもグロテスクにも映るのである。「かわいい闇」というオクシモロン的な表現は、そうした「子ども」を指す表現として実に言い得て妙である。その意味で、この作品は思春期に至る前の「子ども」を実によく捉え、描いてみせていると言えるだろう。

 巻末には翻訳者による製作者へのインタヴューが載っていて、その中で、この作品に対する読者の反応は真っ二つに割れたと述べられている。

おそらく子供時代に愛着を持っている人たちには強く訴えかける作品なんでしょうね。逆にイヤな思い出がある人には悪夢のように働くのかもしれません。(98頁)

 してみると私は後者ということかもしれない。さあ、あなたはどちらになるか、一度お試しになってはいかがだろうか。

 いやはや、思い返すだにぞくぞくするようだ。

 

 気分を変えるべく歌を聴く。

 ベルギー出身の Stromaé ストロマエ(はマエストロの逆さ言葉)。2013年のセカンド・アルバム√ が大ヒットし、ストロマエは一躍世界的なスターになった。その後、結婚して現在は休養中の由。今日はストレートに "Papaoutai"「パパウテ」を。ストロマエは1985年生まれ、1994年に(大虐殺があった際に)ルワンダ人の父を亡くしている。"Papaoutai" は "Papa où t'es ?" であり、「パパ、どこにいるの?」のくだけた口語表現(だけど、"Où t'es ?" って普通に言うのかな)。

www.youtube.com

Où est ton papa ?

Dis-moi où est ton papa ?

Sans même devoir lui parler

Il sait ce qui ne va pas

Ah sacré papa

Dis-moi où es-tu caché ?

Ça doit faire au moins mille fois que j’ai

Compté mes doigts

 

Où t’es papa où t’es ?

Où t’es papa où t’es ?

Où t’es papa où t’es ?

Où t’es où t’es où papa, où t’es ?

("Papaoutai")

 

君のパパはどこ?

言ってよ 君のパパはどこ?

パパに話さなくても

パパは何が問題か知っているよ

ああ、困ったパパ

どこに隠れたの?

少なくとももう千回も 僕は

指折り数えたよ

 

どこにいるの パパ どこにいるの?

どこにいるの パパ どこにいるの?

どこにいるの パパ どこにいるの?

どこ どこにいるの パパ どこにいるの?

(「パパウテ」)