フレデリック・ペータース『青い薬』、原正人訳、青土社、2013年
原著の刊行は2001年。これは、好きになった女性(とその連れ子)がエイズ患者だった男性の物語であり、本書は、90年代以降に書かれるようになった自伝的BDの代表作の一つに数えられているという。
本書では、現在進行形の3人の日々の生活が、回想を交えつつ語られているが、そこでは性生活を含めた私的な側面がかなり具体的に描かれていていて、それ故に一層切実な内容となっている。相手がエイズ患者であるということから、カップルの二人は、愛なのか同情なのかと思い悩み、偶然的な事にも責任を感じたりと、通常なら考えもしないで済む問題に直面することになる。けれども、そうした悩みの一つ一つに誠実にぶつかっているが故に、これは純度の高い愛の物語になりえていると言えよう。
このいささか文学的な語り口には、日本の伝統的な私小説を思わせるものがあるし、また最近ではコミック・エッセイというジャンルも独立して存在しているくらいだから、この作品は日本の読者にはむしろ違和感なく受け入れられるのではないだろうか。
ところで、この翻訳版は2013年にフランスで出版された増補新装版に基づいており、巻末には12年後の後日談が付されている。この後日談のあるなしによっては、本体の物語の持つ意味が変わることになると言ってよいだろう。幸いなことに、その変化は喜ばしいものであった。結果として、本書は今日、エイズが不治の病として恐れられていた時代の貴重な記録の一頁という意味を持つに至ったのである。
今日もヴァネッサ・パラディの Love Songs より、"Love Song"。この曲は、サビだけ英語。
Love I don't know
Nothing about love you know
Hold me till the day is done
All night long let's have some fun
(”Love Song”)