えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

「十九世紀における小説の進化」/ジョイス・ジョナタン「幸福」

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 昨日はモーパッサンの誕生日。

 それより数日前に翻訳を一つ仕上げる。

モーパッサン 『十九世紀における小説の進化』

 また文芸論を訳してしまった。

 『1889年万国博覧会誌』に載ったこの記事には挿絵が2枚あって、1枚はこのルイ・ブーランジェによるバルザック肖像画。万博の時には革命100周年を記念する美術展も開催されており、そこで展示されたものらしい。しかしあんまり似ていないように見える。ちなみに同じ雑誌に、テオドール・ド・バンヴィルは詩についての19世紀の回顧を記している。

 19世紀の小説の元祖はルサージュでもルソーでもなくアベ・プレヴォーであり、プレヴォーこそが観念的ではない真に現実的で血脈をそなえた人物の創造に成功した、という評価はモーパッサン独自のものといっていいだろう。一方、リアリズム小説を完成に導いた作家としてバルザックスタンダールフロベール、ゾラの四名を挙げるのは、今日の仏文学史の記述とも基本的に変わらない。それは、評価すべきことだと思う。

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  そして挿絵のもう一枚はラファエリによるエドモン・ド・ゴンクール肖像画としてはこちらの方が有名かと思われる。これは10年ごとの展覧会に展示されたらしい。

 話は戻って、モーパッサンの言葉で一番興味深いのは、解説にも記したとおり、1889年(著者39歳)の時点で、彼が新しい世代の作家たちの主張するところを知っていたという事実であろう。

こんにち現れたばかりの新人たちは、貪欲な好奇心をもって人生へと向かい、自分たちの周囲に熱心にそれを眺め、それぞれの気質次第の力強さでそれを享受したり、苦しんだりする代わりに、もはや自分たち自身しか眺めず、ただ自分たちの魂、心、本能、美質や欠点ばかりを観察し、最終的な小説の形は自伝でしかありえないと宣言している。

モーパッサン「十九世紀における小説の進化」)

 これが具体的に誰を指すのかははっきりしないけれど、こうした主張の先に、プルーストやジッドの登場があるということは疑いない。

 観察に基づき、他者を描くことを求めた19世紀から、自己内省への20世紀へと向かう時代の大きな転換を、モーパッサンはこの時点ですでに、しっかりと感じ取っていたのである。たとえ彼が旧世代の側に属していたことも確かだとしても。

 

 Joyce Jonathan ジョイス・ジョナタンの2016年のアルバムUne place pour moi『私のための場所』より"Le Bonheur"「幸福」などを。

www.youtube.com

Le Bonheur, c'est pas le but mais le moyen

Le bonheur, c'est pas la chute, mais le chemin

Mon bonheur, c'est toi

Mon bonheur, tu le sais

C'est toi et moi sur l'oreiller

("Le Bonheur")

 

幸福、それは目的ではなく手段

幸福、それは結末ではなく途中

私の幸福、それはあなた

私の幸福、ねえそうでしょ

それは同じ枕の上のあなたと私

(幸福)