ご縁あって『図書新聞』第3321号(2017年10月7日)に、ピエール・スヴェストル、マルセル・アラン『ファントマ』、赤塚敬子訳、風濤社、2017年の書評を書かせていただく。せっかくなので、冒頭の2段落を引用。
犯罪大衆小説の古典、本邦初の完訳
ファントマとは、1911年から13年にかけて、二人の共著者がフランスで発表した大衆犯罪小説(全32巻)の主人公。次々に強盗や殺人を行う冷血無情の大悪党は、その名が「ファントーム(幽霊)」からの造語であるように、神出鬼没、変装によって様々な人物になりすます。辣腕のジューヴ警部と新聞記者ジェローム・ファンドールがこの悪漢を追い詰めるが、ファントマは最後には身をかわし、物語は次巻へと続いてゆく。それが『ファントマ』シリーズの大筋だ。本書はシリーズ第1巻の初の完訳。誕生から百年を経て、この名だたる犯罪王の真の姿を日本でも確認できるようになったことは、古典的な探偵小説の愛好家にとって嬉しいニュースである。
物語は殺人事件で幕を開ける。場所はフランス南部の地方都市。真夜中、閉ざされた屋敷の中でラングリュヌ侯爵夫人が殺害される。犯人はいつ、どこから来て、どこへ消えたのか。一方、その場に偶然居合わせたランベール親子。父エチエンヌは、息子シャルルが狂気に駆られて殺人を犯したのではないかと疑う。父は息子を問い詰めた後、二人そろって姿をくらます。親子はどこへ消えたのか、そして息子は本当に殺人犯なのか。この不可解な事件の調査に訪れたジューヴ警部は、そこにファントマの影を感知するが……。
ちなみにフランス人は「ファントマス」と語末の s を発音するのが普通らしいが、それが何故なのかよく分からない。ま、それはともかく、アルセーヌ・リュパンやジゴマと同時代に大いに流行したこの犯罪小説が、日本でもその名を広く知られるようになってほしいと思う。
クロ・ペルガグ Klô Pelgag の2016年のアルバムL'Étoile thoracique 『あばら骨の星』より、"Les Ferrofluides-fleurs" 「磁性流体の花」(という邦題であるらしい)。
Les ferrofluides-fleurs
Poussent au milieu des champs magnétiques
Les ferrofluides-fleurs
Germent au cœur des idées érotiques
("Les ferrofluides-fleurs")
磁性流体の花は
磁場の真ん中に生える
磁性流体の花は
エロチックな考えの中心で芽生える
(「磁性流体の花」)
まったく訳が分からなくて素晴らしいなあ。