えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

「ひげの女」ほか翻訳/ミレーヌ・ファルメール「ストウルン・カー」

 モーパッサンの若かりし頃の笑劇『バラの葉陰、トルコ館』を訳したのを機に、合わせて訳してしまおうと思い立った詩篇が三つ。

モーパッサン「ひげの女」

モーパッサン「我が泉」

モーパッサン「69」

 1881年、ベルギーで地下出版された『19世紀の新サチュロス高踏派詩集』に収録された禁断の詩篇。20世紀半ばまでは、伝記の中でもタイトルを明言するのがはばかられていたような代物である。

 他のより先に訳したら、なんだかモーパッサンに悪いような気がして留保していたが、『バラの葉陰』と同じ青年時代のモーパッサンの一面を示す作品に違いないので、これを機会として訳出してみた次第。

 「我が泉」は換喩法で語っているので、手法としては伝統的と言えなくもない。「69」のほうがより直接的であって、スカトロジックな点が特徴と言える。恐らく一番興味深いのは「ひげの女」だろうか。いずれにしても、なんというか、モーパッサンにあっては「背徳」とか「タブー」とかいった観念がとても希薄なので、淫靡な感じはあまりしないのではないかと思う。

 それはそうと、この『サチュロス高踏派詩集』は全3巻からなるのだけれど、これがフランス国立図書館では、地下文書を収めた「地獄」と呼ばれる部署に保管されている。そんな書籍も今ではGallicaで読めるようになっているのには、ほとほと感心するばかりだ。表紙を繰ると数頁目に、"Enfer 190" と鉛筆書きされているのであった。

 

 脈略はなく歌の話。ミレーヌ・ファルメール Mylène Farmer 2015年のシングル "Stolen Car" 。もともとスティングの曲を、スティングとデュエットするに際して、ミレーヌが一部の歌詞をフランス語に書き換えている。(歌詞では)彼女は車泥棒が奪った「車」の役だと思われるが、フランス語では voiture は女性名詞だからでもある。パリでは車もフランス語を話すのだろうか。

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Please take me dancing tonight

I’ve been all on my own

Les promesses d’un jour, d’un soir

Je les entends comme un psaume

I’m just a prisoner of love

Prisonnière de mes failles

Take me dancing

Please take me dancing tonight

(“Stolen Car”)

 

今晩わたしをダンスに連れて行って

ずっと一人だったのよ

いつか、ある晩にと約束したでしょ

詩篇のように聞いていたのよ

わたしは愛の囚われ人

自分のひび割れに囚われているの

ダンスに連れて行って

今晩わたしをダンスに連れて行って

(「ストウルン・カー」)