えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

『モーパッサンの修業時代』書評掲載/グラン・コール・マラード「赤信号で」

 『図書新聞』、第3339号、2018年2月17日付に、倉方健作氏による拙著『モーパッサンの修業時代 作家が誕生するとき』についての書評が掲載されました。やれ嬉しや。この場を借りて感謝を申し上げたいと思います。

 前半は主に著書の内容の紹介。後半部の一部分を引用させていただきます。

 本書はフランスで1970年代以降蓄積された研究に根ざしている。モーパッサンの「誕生」に至る過程をこれほど丹念に追った研究書は本国でも求めがたいだろう。作家の歩みに付き添う端正な文章は論理の飛躍や錯綜とは無縁であり、説得的であると同時に心地よい。モーパッサンの愛好者、また文学研究者に資するところは大きく、この時期の作家に関する最先端の知識を一足飛びに手にすることを可能とする――だが、それゆえの不安もなしとしない。「修業時代」を経て「誕生」したモーパッサンの到達点、つまり完成された作家像を思い描くことのできない読者にとっては、本書を最後まで読ませるだけの牽引力が足りないのではないか、という危惧である。読後に受けた印象は、ちょうど本書の表紙画のアップショットに似ている。モーパッサンの顔に一瞬寄る皺までも子細に描き出すような本書の筆致は、そこに潜む思考や感情の機微をも明らかにするが、その一方で歩みを進めている青年を取り巻く風景や、周囲を同じように歩む人々の様子を示すロングショットに欠けている観は否めない。

(『図書新聞』、第3339号、2018年2月17日、5頁)

  過分のお言葉に加えて、たいへん的確なご指摘を頂きまして頭が下がります。この後、日仏のモーパッサンの受容の違いに問題があると指摘され、拙サイト「モーパッサンを巡って」もご紹介いただき、まことに有難いばかり。

だが本当の期待はやはり、日本におけるモーパッサンの地位向上である。昨年12月9日から東京の岩波ホールを皮切りにフランス映画『女の一生』が公開されているが、これらが新訳の出版や旧訳の再刊、さらには作家の再評価に繋がることを願ってやまない。そのときにこそ、本書はその真価がさらに広く理解されるに違いない。

(同上)

  本当に、そうなったら素晴らしいことです。それに少しでも貢献できるよう、今後とも精進しようと、思いを新たにした次第です。重ねて感謝を。

 

 グラン・コール・マラード Grand Corps Malade の「赤信号で」"Au feu rouge" は2018年のアルバム『Bプラン』Plan B に収録。

 赤信号の時に出会った物乞いの女性を拒絶するが、実は彼女ヤナはシリアからの難民であったと、彼女の来歴を物語る歌。画面に映るのは実際に色々な国からフランスへやって来た人たち。

www.youtube.com

Moi je lui dis non avec ma main et je redémarre bien vite

J'avais peut-être un peu de monnaie mais j'suis pressé, faut qu' je bouge

Je me rappelle de son regard, j'ai croisé Yana au feu rouge

("Au feu rouge")

 

僕は彼女に駄目と手で告げ、急いで発車させる

小銭を持っていただろうけど、急いでいるんだ。行かなきゃいけないんだ

彼女の視線を思い出す。僕は赤信号でヤナとすれ違った

(「赤信号で」)