一言で言って、これは傑作。
ペネロープ・バジュー『キュロテ 世界の偉大な15人の女性たち』、関澄かおる訳、DU BOOKS、2017年
culotttéは「厚かましい、図太い」を意味する形容詞、と辞書にある。ここでは culotter の過去分詞「キュロット(半ズボン)をはいた」の原義から、いわゆる「男勝り」のニュアンスで使われている。
本書は、日本語の副題にあるとおり、世界中から選ばれた傑出した女性の伝記を描く漫画であるが、まず、なんといっても、その選択が素晴らしくも刺激的だ。労を厭わず15人を挙げてみよう。あなたは何人ご存じでしょうか? 紹介文も本書より。
1. クレモンティーヌ・ドゥレ、ヒゲで一世を風靡したバーの女主人(フランス)
2. ンジンガ、西欧列強から小さな自国を守ったアフリカ大陸最強の女王(アンゴラ)
3. マーガレット・ハミルトン、心優しきホラー女優(アメリカ)
4. コードネーム ”ラス・マリポサス”、祖国の民主化に身を捧げた美しき3姉妹(ドミニカ共和国)
5. ヨゼフィーナ・ファン・ホーカム、永遠の愛を貫いた女性(オランダ)
6. ローゼン、勇猛果敢なアパッチ族の女戦士(アメリカ南部)
7. アネット・ケラーマン、”水中のヴィーナス”と呼ばれた女優(オーストラリア)
8. デリア・エイクリー、アフリカ大陸を横断した初の女性探検家(アメリカ)
9. ジョゼフィン・ベーカー、人種差別と闘った黒人ダンサー(アメリカ)
10. トーベ・ヤンソン、大人気キャラクター「ムーミン」の生みの親(フィンランド)
11. ハグノーディケー、古代ギリシャ初の女性医師(アテネ)
12. リーマ・ボウイー、DV夫に別れを告げ、祖国を救った女性平和運動家(リベリア)
13. ジョージナ・リード、ニューヨーク州最古の灯台を守った老女(アメリカ)
14. クリスティーン・ジョーゲンセン、性別適合手術を世に知らしめた”女性”(アメリカ)
なんとも新鮮なラインアップではないだろうか。正直に告白すると、私が知っていたのはたった3人(ジョゼフィン・ベーカー、トーベ・ヤンソン、則天武后)であり、それも、ほとんど名前を知っていたにすぎない(ジョゼフィン・ベーカーの人生など実に感動的だ)。これだけ色々な女性を取り上げていることに、まずは驚かされる。
さて、本書は、この15人の女性の生涯を3~7頁で語り、それぞれ最後に2頁見開きの大きなイラストが付くという構成になっている。作者の端正な絵が魅力的で、人物を生き生きと描いてみせてくれているが、それにしても、とにかくどの女性も実に格好いいのである。誰もが前向きに、果敢に、颯爽と、堂々と自分の人生を生きている。これは、実際に彼女たちの生き方がそうであったのだろうけれど、それ以上に、作者ペネロープ・バジューの意識的な演出の結果と言ってよいだろう。過度に肩肘張らない自然体のままに、しかしそれぞれの女性の人生を肯定し、全面的に受け入れ、思いを込めて、作者が一人ひとりの人生を丁寧に語っているからこそ、それぞれの物語が輝いていて、そこには嫌味も気取りも一切ない。
それだけでも十分に素晴らしいのだが、さらに駄目押しするかの如くなのが、各話最後に置かれた2頁見開きのイラストである。それぞれの女性にオマージュを込めた絵となっており、いずれも、大胆な構図と斬新な色使いが印象的で、いや正直に打ち明ければ、ペネロープ・バジュー、ここまでセンス抜群で才能豊かだとは知りませんでした。どれも惚れ惚れするような出来栄えで、見飽きることがない。
それにしても、どの女性も実に個性的で、驚くような話が満載で、読んでいるとそわそわ落ち着かなくなってくる。こうしちゃいられない、がんばらなければ、と訳もなく思うのだが、これがつまりは、世にいう「勇気をもらう」ということだろうか。
負けないこと、信念を持つこと、行動すること。言葉にするのは簡単だ。あまりに簡単すぎて、その言葉に重みを持たせることは難しい。けれどペネロープ・バジューは、どこまでもスタイリッシュなままに、人生とはこのようなものでありえるということを、優しさと力強さを同時にたたえながら、鮮やかに描いてみせている。だから、それぞれの女性の生き方に感銘を受けると同時に、そんな作者の確かな視線、彼女の抱く思いが、読む者にしっかりと伝わってくるのだ。
掛け値は一切なく、本書は素晴らしい。もう本当に、何度繰り返しても足りないくらいで、この素晴らしさを、ぜひ、さらに多くの人に知ってほしいと思う。
本書を読んで感動するのに、男か女かということは、とりあえず関係ないはずだ。
Zaz ザーズ、5月に日本公演も決定とのことで、復習しておくこととしよう(いやまあライブには行けないけど)。2015年のライブアルバム Sur la route『オン・ザ・ロード』に収録されている "Si jamais j'oublie"「いつか私が忘れたら」。これはもしかして、認知症についての歌なのだろうか?
Si jamais j’oublie,
Les nuits que j’ai passées
Les guitares et les cris
Rappelle-moi qui je suis,
Pourquoi, je suis en vie
Si jamais j’oublie
Les jambes à mon cou,
Si un jour je fuis,
Rappelle-moi qui je suis,
Ce que je m’étais promis
("Si jamais j'oublie")
もしいつか私が忘れたら
私が過ごした夜を
ギターや叫び声を
思い出させて 私が誰か
なぜ私は生きているのか
もしいつか私が忘れたら
一目散に
もしある日私が逃げ出したら
思い出させて 私が誰か
私が何を期待していたかを
(「もしいつか私が忘れたら」)