えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』/バルバラ「褐色の髪の女性」

『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』

 『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』、バンジャマン・レネール、ステファン・オビエ&ヴァンサン・パタール監督、2012年

 これについては以前からぜひ一言記しておきたかった。

 「くまのアーネストおじさん」は、ガブリエル・バンサンによる絵本のシリーズで、アーネストとねずみのセレスティーヌの温かい交流の様が愛おしい作品。それが2012年にフランス=ベルギー=ルクセンブルクでアニメーション映画になった。もっとも、映画化といっても原作をなぞったものではなく、脚本は人気作家のダニエル・ペナックによる。主人公の造形も絵本とは実はだいぶ違っている。

 それはそれ、この映画はとてもよく出来ているので、ぜひこの素晴らしさをもっと多くの人に知ってほしいと思わずにいられない。

 まずは、なんといっても絵がいい。原作にあわせて、動物たちと背景は水彩画タッチで描かれているが、その絵柄が、ノスタルジックな感じも漂わせつつ、上品で、優しく、あたたかみに溢れている。

フランスの伝統的なアニメーションは絵柄に力を入れる分、動きには乏しいことが多かったように思うが、本作は動的なシーンも多く、その動きはしなやかで、実に生き生きしている。そこにはジブリをはじめ、日本のアニメーションの影響がはっきりと窺われるが、絵柄と動きがとてもよく融合している。画面の切り取り方にもその都度工夫が見られ、飽きさせずに物語が進行してゆく。

 そして物語が素晴らしい。世界は地上と地下に二分されており、地上はくまが住み、地下にねずみが住み、両者は敵対している。そこで、それぞれの世界において、はみだし者で居場所のない、くまのアーネストと、ねずみのセレスティーヌが出会う。ふたりはやがて仲良くなるが、両方の世界の警察がふたりの行方を追いかけていた……。

 ペナックの脚本は模範的なまでに律儀に、地上と地下とを対比させ、交互に物語を語ってゆく。そのシンメトリーの構図が、とてもよく考えられていて見事だ。そして、それぞれの世界で居場所を持てないふたりが、互いを大事に思うようになってゆく。その様子がいじらしくも、微笑ましいのである。なんとも模範的な構成なので、大人の鑑賞者が感涙にむせんだりはしないだろうけれども、十分に納得し、満足して観終えること疑いないと思う。構図、シーンの構成から、表情や声優の配役を経て、エンディングのトマ・フェルセンの歌に至るまで、これは、実にまったく非のつけどころのない佳作だと断言したい。

 くまはくま、ねずみはねずみ。互いに相容れることはできないと思われている「社会」に対し、アーネストとセレスティーヌは抗議の声を上げ、そして言う。自分たちは一緒にいたいのだと。異なる者どうしの共生という本作のメッセージは、紛れもなく今の世界にとって最も重要なものの一つに他ならない。

 そもそも、なぜくまとねずみなのか。その問いに答えるのは、さして難しいことではない。最も大きなものと最も小さなもの。くまとねずみとは、まったく異なるもの、正反対のものの象徴に他なるまい。だから、他者とのあたたかい共生という主題は、もちろんガブリエル・バンサンの原作の根幹に根づいているものだ。ペナックの脚本はそれを作品の中心に置くことで、原作者の思いをきちんと掬い上げてみせたのである。

 

 実はその後、2017年に「くまのアーネストおじさん」は、短いテレビアニメ(1話13分)のシリーズが制作され、今年、日本版のDVD(6巻)が発売された。絵柄は多少異なっており、アーネストおじさんの声優も替わっている(品が良くなったと言おうか)が、全体としてなかなかよく出来ているので、こちらも広く知られるといいなと思っている。

『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』DVD発売!|DVD公式サイトーGAGA

 

 バルバラの話をしていると、隔世の感があってくらくらするやら、気恥ずかしいやらではある。これも目まいがしそうに懐かしいジョルジュ・ムスタキとのデュエット「褐色の髪の女性」"La Dame brune" は、1967年の作。この映像もその頃か。

 バルバラくらい人間ばなれしていると、こんな歌でも歌えてしまう。彼女以外でこの歌が歌える歌手をとても思いつかない。いやもう大変。最初の2節だけ拙訳。

www.youtube.com

Pour une longue dame brune

J’ai inventé

Une chanson au clair de la lune

Quelques couplets

Si jamais elle l’entend, un jour

Elle saura

Que c’est une chanson d’amour

Pour elle et moi

 

Je suis la longue dame brune

Que tu attends

Je suis la longue dame brune

Et je t’entends

Chante encore au clair de la lune

Je viens vers toi.

Ta guitare, orgue de fortune

Guide mes pas

("La Dame brune")

 

長身の褐色の髪の女性のために

僕は作った

月明かりの下の歌

いくつかの節

いつか彼女が聴いてくれたら

分かるだろう

それが愛の歌だと

彼女と僕のための

 

私は長身の褐色の髪の女性

あなたが待っている

私は長身の褐色の髪の女性

私は待っているの

月明かりの下でもっと歌って

あなたのもとへ行くわ

あなたのギター、間に合わせのオルガン

道を教えて

(「褐色の髪の女性」)