えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

BD『年上のひと』/クリストフ・マエ「秋」

『年上のひと』表紙

 バスティアン・ヴィヴェス『年上のひと』、原正人訳、リイド社、2019年

BD『ポリーナ』/ザジ「愛の前に」 - えとるた日記

にも書いたけれど、この人はとにかく絵が上手い。デッサン力が不動の安定感を保っており、省略を利かせた描写はとても洗練されている。また、彼のカット割りはとても映画的だ。

 『年上のひと』の主人公はアントワーヌ、13歳、三歳下の弟がいる。家族は夏のヴァカンスに別荘にやって来るが、そこで、16歳の少女エレーヌと一週間、一緒に過ごすことになる。二人は次第に仲良くなってゆき、その過程で年上のエレーヌは、飲酒や夜遊びにはじまり、性的な事柄にいたるまで、アントワーヌを青年の世界に導いていく……。

 これはいわゆる、一夏の甘くも苦い初恋の物語。いやもう、十代でこんなのを読んだら悶絶してただろうなあ、と、そいういうお話であった。ごく個人的には、『ポリーナ』で世界がぐっと広がったのに比べると、やや物足りなく思うところがないでもない。しかしながら、語りの技術とセンスの良さには一層磨きがかかったかのようで、まったく惚れ惚れするような出来栄えだと思う。ここには、リアリティとファンタスムの絶妙にして強固な結合があり、そのあまりの自然さにすべてを説得されてしまう。

 バスティアン・ヴィヴェス、まったく怖い物なしの才能だ。

 

 秋の歌をもう一曲。クリストフ・マエ Chrsitophe Maé の「秋」"L'Automne"は、アルバム『幸福がほしい』 Je veux du bonheur (2013) に収録。動画はないので音声のみ。

www.youtube.com

Quand vient la saison de l'automne

Tout me rappelle que je l'aime encore

Alors je laisse mon amour à l'automne

Et dans ses dentelles tous mes remords

("L'Automne")

 

秋という季節がやって来る時

すべてが思い出させる 僕がまだ彼女を愛していることを

それで 僕は自分の恋を秋に置き去りにする

そして そのレースの中に 僕の後悔のすべてを

(「秋」)