えとるた日記

フランスの文学、音楽、映画、BD

『フランス文学小事典 増補版』/-M-「大きな馬鹿なガキ」

『フランス文学小事典 増補版』表紙

フランス文学小事典 増補版 | 語学 | 朝日出版社

 岩根久他編『フランス文学小事典 増補版』、朝日出版社、2020 年

が刊行されたのでご報告。めでたいことだ。初版は赤い表紙だったのが、涼しい青色に変更されている。

 本書は、2007 年に刊行されたものの増補改訂版。帯裏には「コンパクト・サイズでありながら、作家数 279、作品数 171、事項数 85。作家・作品、事項、どこからでもすぐ引ける!」とある。実は私は「執筆者」の一人なので、なにを言っても手前味噌になるけれど、実際、B6 判変型という小さなサイズのわりに、内容はぎっしり詰まっていると思う。

 ぱらぱら繰っていると、執筆していた頃のことがあれこれ思い出されてくる。楽しくもあり、なにかと辛くもあった頃でした。刊行から 13 年経ったと聞くと、まことに月並みながら、ずいぶん時が経ったものだとしみじみ思う。

 ところで、改訂にあたって「新しく 8 項目を追加」と書かれているが、何が追加されたかまでは書かれていないので、ここにその 8 項目を挙げておこう。五十音順。

・ヴォージュラ(文法学者、17 世紀)

・『社会契約論』(ルソー、18 世紀)

エメ・セゼール(20 世紀)

・『ナナ』(ゾラ、19 世紀)

・ナラトロジー(20 世紀)

フレデリックミストラル(19 世紀)

パトリック・モディアノ(20-21 世紀、2014 年ノーベル文学賞

クロード・レヴィ=ストロース(20 世紀)

 以上、作家 5、作品 2、事項 1 の 8 項目という次第。

 いささか悲観的なことを記せば、このような事典を作ることは、これからの時代には(人的にも経済的にも)ますます難しくなってゆくだろうと思う。一方で、こういう本が書店の棚にあることは、単に狭い仏文業界にとってだけでなく、広く日本の出版文化にとっても意味のあることではないかと、大げさかもしれないけれども思わないでもない。再版を決心してくれた出版社に深く感謝したい。

 「フランス文学」をその全体において把握したいと思う人が、今の日本にはたしてどれくらいいるのか分からないけれど、生まれ変わったこの『小事典』が誰かのお役に立ちますようにと願ってやみません。394 頁、値段は 2,500 円+税となっています。

 

 -M-こと Matthieu Chédid  マチュー・シェディッドのアルバム Lettre infinie 『無限の手紙』(2019)より、"Grand petit con"「大きな馬鹿なガキ」(適当な訳)。クリップはミッシェル・ゴンドリーによる。

www.youtube.com

Quand je vois

Dans tes yeux d'enfant

Que je deviens con

Tout petit

Tellement chuis un grand

Grand petit con

("Grand petit con")

 

お前の子どもの目の中で

僕が馬鹿になるのを見る時

とても小さい

あまりにも 僕は大きな

大きな馬鹿なガキさ

(「大きな馬鹿なガキ」)