モーム『人間の絆』(上中下)、行方昭夫訳、岩波文庫、2001年 やっとのことで読み終える。3冊は私にとってはずいぶん長かった。原作は1915年刊。 サマセット・モームには独特の冷静さというか冷淡さがあって、それ故に諷刺は抜群である一方で、どこか物足り…
小林康夫『若い人のための10冊の本』、ちくまプリマー新書、2019年 この本は、文字通りに青少年に向けて10冊の本を薦める、というのとはちょっと趣が違っている。ここで挙げられるのは著者自身が人生の中で出会ってきた本たちだ。「本と出会うとはどういうこ…
ジャック・タルディ ビジュアル総監修、クリスチャン・デスマール、フランク・エキンジ監督『アヴリルと奇妙な世界』、2015年 冒頭は1870年、ナポレオン三世とバゼーヌが科学者ギュスターヴ・フランクランのもとを極秘に訪れる。ギュスターヴは不老不死をも…
読んだという記録に。 エミリー・ブロンテ『嵐が丘』、鴻巣友季子訳、新潮文庫、2016年 いやー、こんな話だったんだ『嵐が丘』ってー。これは驚きました。原作は1847年に発表。 煎じ詰めるとこの物語は、ヒースクリフというどこの馬の骨とも分からぬ捨て子を…
後半 ニコライ・ゴーゴリ『外套・鼻』、平井肇訳、岩波文庫 ロシア文学。「ある朝目が覚めたら、鼻が自分より偉くなっていた」男の話です。訳が分からない? じゃあ、読むしかありませんね……。え、読んだけど分からなかった? なるほど。でも、それってそん…
・このリストは、10代後半から20代初めで、外国文学をまだ読んだことがない、でもこれから読んでみようと思っている人(男女を問いません)を想定して作りました。 ・数ある古典の中から、「はじめて読む」のにふさわしいと思う作品を選んでいます。どれも有…
モーパッサン『わたしたちの心』、笠間直穂子訳、岩波文庫、2019年 岩波文庫からモーパッサンが新たに出るなんて、これを事件と呼ばずに何を事件と呼ぼうか。 そもそも驚きなのは、この作品がかつて岩波文庫に入っていなかったという事実だ。本作は、1890年…
デイヴィッド・ロッジ『小説の技巧』、柴田元幸・斎藤兆史訳、白水社、1997年(2016年24刷) とても売れているこの本も、つい最近に知って読んだ次第。 本書は新聞日曜版の連載をまとめ直したもの。各回、小説の技法に関するテーマを一つ取り上げ、作品から…
『愛人 ラマン』、マルグリット・デュラス原作、高浜寛漫画、リイド社、2020年 右開きでフルカラー、日仏同時発売だから、これはBDと呼んでいいのだろうと思う。 私が個人的に驚いたのは、「あとがき」に書かれ(裏帯にも載せられ)ている次のような言葉だっ…
トーマス・C・フォスター『大学教授のように小説を読む方法 増補新版』、矢倉尚子訳、白水社、2019年 恥ずかしながらこの本の存在をずっと知らずにいた。仏文だからというのは言い訳にもなるまい。ま、そんなことはどうでもよく、この本はたいへん面白く読…
上に立つ者が不正を行い、それを隠蔽しようとすることで下の者が犠牲を被る。そうしたことが今の世の中に起こっているというのなら、仏文学者たるもの、そういう話はよく知っていると言わなければならない。ドレフュス事件のことだ。 軍人アルフレッド・ドレ…
フランス文学小事典 増補版 | 語学 | 朝日出版社 岩根久他編『フランス文学小事典 増補版』、朝日出版社、2020 年 が刊行されたのでご報告。めでたいことだ。初版は赤い表紙だったのが、涼しい青色に変更されている。 本書は、2007 年に刊行されたものの増補…
スタンダール『赤と黒』、小林正訳、新潮文庫、上下巻、1957-58年(上巻、2017年104刷、下巻、2019年88刷) 今、「『赤と黒』は本当に傑作なんですか?」と聞かれたら、どう答えよう。 ひとつ言えることは、スタンダールは職業作家ではなかったということだ…
これも「読んだ」という記録に。 ジェームズ・M・ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす』、田口俊樹訳、新潮文庫、2014年 原作発表は1934年。道路沿いの安食堂に飛び込んだ青年フランク(語り手)は、ギリシャ人の店主に店で働かないかと声をかけられる。フ…
読んだという記録のために。 グレアム・グリーン『情事の終り』、上岡伸雄訳、新潮文庫、2015年 この本とジッドの『狭き門』はまだ読まれているようだけれど、そのことは私には不思議に思える。『情事の終り』は決して分かりやすい話ではないように見えるだ…
推薦書リストの話の続き。 最近、巷の書店で出会って、おおまだ現役だったのかと驚いた本。 桑原武夫『文学入門』、岩波新書、1950年1刷(63年31刷改版、2016年87刷) 「文学は人生に必要である」と堂々と述べるその言葉がなんとも眩しい。1950年にはまだテ…
以前より、推薦図書リストのようなものを探しているわけだが、そうした類のものが難しいのは、そもそもからして多分に教育的意図をもったものである上に、ややもすると威圧的なものになってしまうという理由があるように思われる。 『教養のためのブックガイ…
タイトルを見て最初は「石井先生がそんな本書いちゃだめー」と思ったが、ファンなので黙って購読。 石井洋二郎『危機に立つ東大 ――入試制度改革をめぐる葛藤と迷走』、ちくま新書、2020年 実際に読んでみれば、もちろんこれは時流に乗った浅薄な煽り本などで…
ゴールズワージー『林檎の樹』、法村里絵訳、新潮文庫、2018年 大学を卒業した5月、徒歩旅行に出かけたフランク・アシャーストは、足を痛めて歩けなくなり、近くの農場に泊めてもらうが、そこで出会った娘ミーガンに恋に落ちる。二人は真夜中、花咲く林檎の…
「ガイブン最初の1冊」を探すなかで読んだ本の記録。 ジーン・ウェブスター『あしながおじさん』、岩本正恵訳、新潮文庫、2017年 これは大学生ジェルーシャ・アボットの自立へ向けた成長の過程が、彼女の書簡によって描かれていく物語だ。ジェル―シャの姿は…
ジェイン・オースティン『自負と偏見』、小山太一訳、新潮文庫、2014年 以前から読みたいと思っていた本を読む。初読。原作が匿名で刊行されたのは1813年。 オースティンがどれほど上手かも(冒頭のベネット夫妻の会話から、人物が鮮やかに立ち上がってくる…
ギュスターヴ・フローベール『ブヴァールとペキュシェ』、菅谷憲興訳、作品社、2019年 マラルメは「世界は一冊の書物に書かれるために存在している」と述べた。そのことの意味は、この世界に「意味」をあらしめるのはただ人間の言葉だけであるということだ。…
メリメ『カルメン/タマンゴ』、工藤庸子訳、光文社古典新訳文庫、2019年 『カルメン』については昔にも何か書いたことがあるなあ、と思い出して読み返すと、2010年の記事だった。 カルメン - えとるた日記 『カルメン』は自由の象徴だという読みはまあ常識…
ご縁あって、 第27回 大人も使える「子どもの歌」(1)(中級) | 仏検のAPEF/公益財団法人フランス語教育振興協会 第28回 大人も使える「子どもの歌」(2)(中級) | 仏検のAPEF/公益財団法人フランス語教育振興協会 を書かせていただく。タイトル通り「子ど…
高浜寛『ニュクスの角灯』第6巻、リイド社、2019年 この『ニュクスの角灯(ランタン)』は、明治11年1878年に始まる。舞台は長崎。骨董屋「蛮」に奉公に出た美世は、パリ万博で西洋の品を買い付けて帰国した青年、百年と出会う。美世は商売の基礎を学びなが…
バスティアン・ヴィヴェス『年上のひと』、原正人訳、リイド社、2019年 BD『ポリーナ』/ザジ「愛の前に」 - えとるた日記 にも書いたけれど、この人はとにかく絵が上手い。デッサン力が不動の安定感を保っており、省略を利かせた描写はとても洗練されている…
ミッシェル・オスロの話の続き。 高畑勲に私がもっとも感謝していることは、ミッシェル・オスロの作品を日本へ紹介してくれたことだ。 高畑勲『アニメーション、折りにふれて』、岩波現代文庫、2019年 に収録されている「『キリクの魔女』の世界を語る」とい…
『ディリリとパリの時間旅行』、ミッシェル・オスロ監督、2018年 待望のオスロ監督の新作を映画館にて鑑賞、感無量。 時は1900年、万国博覧会の「人間動物園」に出演していた、ニューカレドニアからやってきたカナカ族の少女ディリリは、なんと故国で(当時…
『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』、バンジャマン・レネール、ステファン・オビエ&ヴァンサン・パタール監督、2012年 これについては以前からぜひ一言記しておきたかった。 「くまのアーネストおじさん」は、ガブリエル・バンサンによる絵本の…
コレット『シェリ』、河野万里子訳、光文社古典新訳文庫、2019年 私は個人的にはコレットにも『シェリ』にもなんの関心もないのだけれど、そういう人間の言うことだからぜひ信じていただきたいと思う。 コレットは本物だ。骨の髄からの小説家だ。『シェリ』…